DN-298: 高電流アプリケーションにおける柔軟な負荷保護のためのLT1970パワー・オペアンプによる即応型可変電流制限
はじめ
多くのパワー・オペアンプは電流制限を内蔵しており、そのリミット値は固定されているか、または外付け抵抗を使ってプログラム可能です。これにより、フォールト状態に対する負荷回路およびアンプ自体の最も基本的な保護手段が与えられます。ただし、場合によっては、異なる負荷要件を満たすために即時対応型電流制限が必要になります。たとえば、自動テスト・システム(ATE)では、フォールトを含む広い範囲の負荷に対して、複数のピン・ドライバを使ってテスト電圧をデバイスやボードに印加し、断線の有無や機能をテストします。負荷回路を保護するため、ATEは各ピンに供給される最大電流を正確に制御する必要があります。理想的には、各ピンの異なった負荷に適応するため、最大電流を即時に制御することができます。
LT1970の概要
LT®1970オペアンプは±500mAの出力電流を供給することができ、正確で使いやすい電流制限機能が付いています。電流制限は2つの簡単な0V~5V電圧入力であるVCSRC(ソース電流用) および VCSNK(シンク電流用)を介して制御されます。これらは4mA~500mAの範囲のある値に最大出力電流を設定します。500mAであっても、出力電流リミットの精度として、厳密に2%の許容誤差(10mA)が保証されています。図1に示されているように、出力電流は負荷に直列に接続された小さな値の抵抗RSによって連続的に検出されます。最大出力電流は次式で表される制御入力電圧とセンス抵抗の関数です。
図1.LT1970:可変出力電流電力段付きの使いやすいオペアンプ
たとえばDAコンバータを使って、制御入力電圧を0V~5Vの範囲で変化させるだけで、出力電流リミットを新しいレベルに迅速に変化させることができます。
例として、100Ωの抵抗が並列に接続された1μFの容量性負荷をドライブしているLT1970の出力波形を図2に示します。電流制限は500mAのソーシング(VCSRC = 5V)および50mAのシンキング(VCSNK = 500mV)に設定されています。負荷容量を充電するため、出力電圧が適当な閉ループ値に達するまでアンプの電流は制限されます。次に、負方向に振れるあいだ、シンク電流制限が、出力が-5Vより下に下がるのを防ぎます。
図2.500mAのソース電流制限と50mAのシンク電流制限の出力応答特性
LT1970はオープンコレクタのエラー・フラグも備えています。これら3つの出力はアンプが(ソーシングまたはシンキングのどちらかの)電流制限状態にあること、およびサーマル・シャットダウン状態にあることを示します。さらに、Enable入力を使ってアンプをターンオフして、出力を高インピーダンスのゼロ出力電流状態にすることができます。この同じ入力を使って、一組の新しい電圧設定と電流設定を同時に負荷に対して適用することもできます。LT1970は裏面に熱放散用のメタルが露出した小型20ピンTSSOPパッケージで供給されます。
「スナップバック」電流制限付きブースト出力電流
LT1970では入力段とパワー出力段に対して電源ピンが別々に用意されています。出力段の電源(V+とV-)には負荷電流だけが流れます。これらのピンは外部パワー・トランジスタのゲートまたはベースをドライブ可能で、アンプの出力電流能力を上げることができます。図3に示されている簡単なパワー段は出力電流を±5Aまで増加させます。同じ0V~5Vの入力により、小さな電流センス抵抗(RS =0.1Ω)を使って出力電流制限を10倍高く(1A/Vに)設定しています。
図3.±5Aブースト出力電流段の調節が簡単な電流制限
利得設定用抵抗を外部に接続すると、負荷のケルビン検出が可能です。帰還抵抗をちょうど負荷のところに接続すると、負荷に加わる電圧は正確に設定値になります。電流センス抵抗両端の電圧降下は帰還ループ内にあるので、電圧誤差を生じません。オープンコレクタのエラー・フラグを使って負荷回路に保護機能を追加するユニークな方法も図3に示されています。アンプが正負どちらかの方向で電流制限状態になると、適当なエラー・フラグが"L"に下がります。高インピーダンスから0Vへのこの遷移により、電流制限制御入力に大きなヒステリシスが与えられ、出力電流が大幅に減少します。抵抗R1、R2、およびR3は電流制限制御帰還を最大2Vと最小200mVに設定します。負荷電流が予め定められた最大リミットを超すと、出力電流は最小レベルにスナップバックします(瞬時に切り替わります)。出力電流は、負荷電流が最小設定値より小さくなるポイントまで信号が低下するまで、この最小レベルに留まります。信号が十分低くなると、フラグ出力はオープンになり、電流制限は最大値に反転します。このアクションは自動的にリセット可能なヒューズをシミュレートして、負荷を保護します。このフィードバックの動作を図4に示します。正負どちらの方向の場合も、リミットを超えると2Aの最大電流制限が200mAにスナップバックします。
図4.簡単な抵抗網によって制御される、ソース電流とシンク電流の両方のリミットを使った「スナップバック」電流制限
まとめ
LT1970は多用途向けの使いやすいパワー・オペアンプで、精密な可変電流制限を内蔵しています。この電流制限により、アンプからの過剰な電力による破壊から負荷回路が保護されます。この機能は、テストされるノード毎に負荷が変化する(あるいはノードが不具合の可能性もある)ATEシステムでは特に便利です。テストされるユニットの損傷を防ぐには、これらのシステムの出力電流を厳密に制御することが重要です。