消費電力と実装密度の問題を解消する多チャンネルのADC

はじめに

工業、計装、光通信、ヘルスケアといった分野では、より多くのアプリケーションでマルチチャンネルのデータ・アクイジション・システムが使われるようになっています。このことは、プリント回路基板における実装密度と消費電力の増加という問題につながります。そうしたアプリケーションでは、より高いチャンネル密度が必要であることは明らかです。そのため、チャンネル数が多く、消費電力が少なく、小型なデータ・アクイジション向けのICソリューション に対する需要が高まっています。また、その種のアプリケーションでは、高い精度で測定を実施でき、信頼性が高く、価格が安く、可搬性を実現できることも求められています。システム設計者は、性能、熱に対する安定性、基板上の実装密度の間でトレードオフを行い、最適なバランスの維持を図ります。一方で、全体的なBOM(部品表)コストを最小限に抑えつつ、そうした課題に対処するための革新的な方法を見出さなければならないというプレッシャーに絶えずさらされています。本稿では、多重化に対応するデータ・アクイジション・システムを設計する際に検討すべき事柄について解説します。また、光トランシーバ、ウェアラブル型の医療機器、IoT(Internet of Things)対応機器、携帯型の計測器など、スペースに制約のあるアプリケーションにおける技術的課題を解決するためのソリューションを紹介します。そのソリューションとは、マルチプレクサにより、複数の入力のうち1つを必要に応じて順次選択し、A/D変換を実施することが可能な多チャンネルのA/Dコンバータ(ADC)です 。本稿では、入力が4チャンネル/8チャンネルで、分解能が 16ビット、サンプル・レートが250kSPS ( キロサンプル/秒) のADC「AD7682」と「AD7689」を取り上げます。これらはアナログ・デバイセズの PulSAR ブランドの製品であり、消費電力が少ないことを1つの特徴とします 。また、パッケージとして2.39mm×2.39mmのWLCSPを採用しており、基板上の実装面積を60%以上削減することができます。さらに、柔軟な構成(コンフィギュレーション)と高い精度でのA/D変換が行えます 。両製品を活用することにより、高いチャンネル密度を実現したり、電池で駆動する携帯型システムが抱える課題に対処したりすることが可能になります。

多重化されたデータ・アクイジション・システム

通常、マルチチャンネルに対応するデータ・アクイジション・システムには、さまざまな種類のセンサーとのインターフェースが必要になります。温度、圧力、光、振動など、アプリケーションの要件に基づく多数の項目に対応する必要があるということです。そのため、それぞれのセンサーに対応するインターフェースとして、それぞれ異なる種類のアナログ・シグナル・チェーンが設けられます。その実現形態としては、1チャンネルのシグナル・チェーンをそれぞれ個別に用意するという方法があります。あるいは、ICとして集積された多重化の手段を利用しつつ、サンプリングを行うシグナル・チェーンも考えられます。より具体的に言うと、次のような方法が考えられます。

【方法1】 複数の入力チャンネルを多重化し、単一のADCに入力する方法(図1)

【方法2】個別のトラック& ホールド・アンプを使用し、それらを多重化して単一のADCに入力する方法(図2)

【方法3】個別のADCを使用し、各チャンネルのサンプリングを同時に行う方法(図3)

一般に、方法1では、逐次比較型(SAR) のADCが使用されます。この方法を採用すれば、消費電力、実装面積、コストを大きく削減できます。個々のチャンネルの入力部には、アンチエイリアシング(折返し誤差防止)のためにローパス・フィルタが必要になる場合があります。チャンネル間のスイッチングとシーケンシングには、ADCの変換時間との間で適切な同期関係を実現することが必要です。方法2では、達成可能なスループット・レートは、サンプリング の対象となるチャンネル数で割った値になります。サンプリングされるチャンネル間の位相は一定に保たれます。入力を同時にサンプリングするために、チャンネルごとに専用のアンプとADCが必要なアプリケーションもあります。その場合、方法3を使用することになります。この方法では、面積と消費電力が増加する代わりに、チャンネル当たりのサンプリング・レートを高められることに加え、位相の情報を維持することも可能です。通常、各ADCで同時にサンプリングを行う際には、チャンネル間で位相情報を維持しつつ瞬時に正確な測定を行うことができます。そのため、ATE(自動試験装置)や電力線監視、多相モーター制御など、チャンネル当たりのスループット・レートが高く、連続してサンプリングを行うことが求められる用途で使用されます。

Figure 1
図1 . マルチチャンネルのデータ・アクイジション向け
シグナル・チェーン(方法1)
Figure 2
図2 . マルチチャンネルのデータ・アクイジション向け
シグナル・チェーン(方法2)
Figure 3
図3 . マルチチャンネルのデータ・アクイジション向け
シグナル・チェーン(方法3)

多重化の最大の利点は、チャンネル当たりのADCの数が少なくて済むことです。それにより、実装面積、消費電力、コストを削減できます。ただし、多重化されたシステムにおいて達成可能なスループット・レートは、単一のADCのスループット・レートをサンプリング・チャンネル数で割った値になります。SAR型のADCは、本質的に遅延が小さく、動作時の消費電力がスループットに比例する という利点を備えます。そのため、検知や監視の機能を実現するためにチャンネルを多重化したアーキテクチャでよく使用されます。光トランシーバ・モジュールで多重化されたデータ・アクイジション・システムを利用する場合、高いチャンネル密度が求められます。同様に、ウェアラブル型の医療機器ではサイズが小さく消費電力が少ないことが必要です。そうした用途では、複数のセンサーからの信号を監視し、多数の入力チャンネルを多重化して単一または複数のADCに入力する方法が用いられます。多重化されたデータ・アクイジション・システムの課題の1つは、入力が次のチャンネルへと切り替わる際、セトリング時間やクロストークの問題を最小限に抑えるために、フルスケール振幅に近いステップ入力に対して高速な応答を実現しなければならないことです。以降のセクションでは、光トランシーバやウェアラブル型の医療機器で使われる多チャンネル入力のSAR型ADCの実例を示しながら、多重化されたアプリケーションに対し、AD7689が理想的である理由を説明します。

光トランシーバの例

100Gbpsに対応する光トランシーバの市場は、今後10年間のうちに高速コヒーレント光通信に向けて間違いなく成長すると見込まれています。光トランシーバの最大の課題は、より広い帯域幅の信号を取得して処理できるようにすることです。言い換えると、より少ない消費電力とより小さい実装面積で多数の入力チャンネルを多重化することが課題になります。今日のトランシーバは、サイズ、消費電力、コスト構造の面から、もともと長距離伝送用に設計されたものだと言えます。そのため、よりコストが重視されるメトロ・ネットワークで利用する際には制約が生じます。メトロ・ネットワークは、500km~1000kmのメトロ・リージョナル、100km~500kmのメトロ・コア、100km以内のメトロ・アクセスに分類されます。メトロ・ネットワークの分野は競争が激しく、占有面積が最も重要な課題となっているため、ラインカード密度が非常に重要視されます。つまり、よりコストの低い光回線カードやプラガブル・モジュールをより小さなフットプリントに収めることが、コヒーレント伝送においてはますます重要になるということです。

光ネットワークでは、チャンネル当たりのビット・レートが10Gbpsから100Gbps以上へと増加するに連れ、光ファイバの非理想的な性質によって信号品質が著しく低下し、伝送性能に悪影響が及びます。また、長距離光ネットワークにも技術的な課題があり、光ファイバの障害に起因して、光ノイズ、非線形性の影響、分散といった問題が生じます。このような重大な問題に対処するために、40Gbpsや100Gbpsの光トランシーバを提供する多くのメーカーがコヒーレント技術を採用しています。それにより、メトロ長距離ネットワーク、長距離ネットワーク、超長距離ネットワークに向けて、最大限の伝送距離に対するより高いデータレートでの接続を実現しています。一般に、コヒーレント技術では、複数のレベルの信号形式とコヒーレント検出を組み合わせ、DP-QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase-shift Keying:二重偏波四位相偏移変調)を適用して最適な信号変調を行います。そうすることで、より高いデータレートにおけるファイバの障害への耐性を高め、コストを抑えつつ 100Gbpsでの伝送を実現しています。100Gbps(またはそれ以上)のデータレートに対応する次世代の光トランシーバには、消費電力の削減と小型化が求められます。それによって、チャンネル密度を高め、占有面積、消費電力、コストを大幅に削減することが可能になります。要件にもよりますが、光システムのチャンネル数は一般的に8 ~64になります。チャンネル密度が高いシステムでは、部品の配置とパターンの 配線がプリント回路基板の設計者にとって特に重要な要素になります。

図4に示したのは、一般的な光モジュールのブロック図です。トランスミッタ、レシーバ、マイクロITLA(Integrable Tunable Laser Assembly)に加え、データ・アクイジション用の部品で構成されています。図5には、マイクロITLAの内部を示しました。マイクロITLAは、電子的にチューニングが可能な広帯域のレーザ・デバイスであり、高速スイッチングによって波長を制御します。トランスミッタは、レーザ光 の振幅または強度を制御するマッハツェンダ( Mach-Zehnder) ドライバと変調器を備えています。通常、多チャンネル入力のADCは、制御や監視の機能において、光モジュールやマイクロITLAの複数のチャンネルから得た信号をデジタル・データに変換するために使用されます。

Figure 4
図4 . 光モジュールのブロック図
Figure 5
図5 . マイクロITLAのブロック図

ウェアラブル機器による生体情報監視

図6に示したのは、一般的なウェアラブル型医療機器のブロック図です。最新のウェアラブル型医療機器は、複数の生体情報をリアルタイムかつ正確に監視するためにさまざまなセンサーを搭載しています。また、Wi-Fiを介して、スマートフォンやタブレット端末、ノート型パソコンにデータを転送/保存するための柔軟なユーザー・インターフェースを備えています。生体電位センサー、生体インピーダンス・センサー、光センサーを利用して、心拍数、呼吸数、血液中の酸素飽和度(SpO2)といった複数の生体情報 を取得します。音響センサーは血圧や摂食活動に関する情報の抽出に用いられ、温度センサーは体温の測定に使用されます。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ベースの慣性モーション・センサー(加速度センサー)は、身体の日々の動きを追跡するために使われます。さまざまなセンサーからの信号に対してはアナログ・シグナル・コンディショニングを施します。その後、信号が多重化されてADCに送られます。システムによっては、一部の信号を同時にサンプリングしなければならない場合もあります。ADCによって各信号から得たデジタル・データに対しては、プロセッサやマイクロコントローラによる後処理が施されます。それにより、生理学的な多くの情報が抽出されます。

Figure 6
図6 . ウェアラブル型医療機器のブロック図

生理学的な状態の監視や心臓の診断には、心臓の動きの監視が欠かせません。従来、その監視には心電図(ECG)が使用されてきました。しかし、光センサーや生体インピーダンス・センサーを搭載するスマートなウェアラブル・システムが登場したことで、そうした状況に変化が起きました。腕に装着する時計、バンド、アクティビティ・トラッカーなどのウェアラブル機器に心拍モニタを搭載できるようになったのです。

光システムでは、皮膚表面を通して高速に点滅する赤外光を照射し、光検出器によって赤血球が吸収する光量を測定します。その微小信号に対しては、アナログ・フロントエンドによってコンディショニングとデジタル変換が施されます。さらに、フォトプレチスモグラフィ(PPG:光電式容積脈波記録法)を用いた後処理を適用することによって、心拍数、呼吸数、SpO2などの生理学的な複数の変数に関する情報を抽出することができます。

生体インピーダンス・センサーは、光技術などと比べて消費電力がかなり少ないため、電池の持続時間を長く確保できます。同センサーは、呼吸数や皮膚インピーダンスの測定に使用できます。このセンサーでは、電極を介して皮膚(生体組織)の内部に正弦波信号を注入し、微小電流の測定、デジタル変換、後処理を順に行います。それによって、呼吸数、皮膚の伝導性、肺中の水量といった多様な生理学的数値を正確に取得することができます。

このようなデバイスには、小型なモジュールに収容可能で、非常に感度が高く、コスト効率と電力効率に優れ、電池による駆動を可能にする集積度の高いソリューションが必要です。また、そのソリューションは、生理学的な複数の変数を高い信頼性と精度で監視でき、動きに起因する要因や外部環境の条件に耐えられるものでなければなりません。さもなければ、実際の信号にノイズの影響が及び、測定値が不正確になってしまう恐れがあります。したがって、ノイズ性能に優れるADCを選択することが重要です。そうしたADCでは、全体的なダイナミック・レンジを高めるためにオーバーサンプリングや平均化が行われます。対象となる入力周波数帯域はDC~250Hz程度であり、ADCのサンプリング・レートは数kSPSのレベルになります。

4/8チャンネル、16ビット、250kSPSのADC

AD7682とAD7689は、アナログ・デバイセズ独自の0.5μm CMOSプロセスで製造される高集積度のADCです。分解能が16ビット、サンプル・レートが250kSPSのSAR型ADCであり、4 チャンネル/8チャンネルの切り替えを担うマルチプレクサを内蔵しています。このマルチプレクサでは、各チャンネル間の不整合やクロストークが最小限に抑えられており、シーケンシャルなサンプリングが行えます。両製品では、温度ドリフトが非常に小さい2.5V/4.096Vの高精度内部電圧リファレンス、外部リファレンス、外部のバッファ付きリファレンスのうちいずれかを選択して使用することが可能です。両製品の内部温度は、内蔵する温度センサーによって監視されます。それにより、外部部品を削減でき、プリント回路基板上の実装面積とBOMコストを大幅に抑えることができます。また、チャンネル単体あるいはチャンネルのペアをスキャンする際に便利なチャンネル・シーケンサを内蔵しています。加えて、内蔵温度センサーの有効化と無効化を繰り返し実行する機能を備えています。さらに、SPI(Ser ial Per ipheral Inter face)、Microwire、QSPI(Quad SPI)などのデジタル・ホストに対応する柔軟なシリアル・デジタル・インターフェースを備えています。ユーザーは、内蔵する14ビットの構成用レジスタを使用することにより、サンプリングを実行するチャンネル数、リファレンス、温度センサー、チャンネル・シーケンサなど、さまざまなオプションを選択することができます。また、データ用のインターフェースについては、変換動作中の4線式読み出し、変換後の読み出し、ビジー表示あり/なしの場合のスパニング変換モードの読み出しが可能です。AD7682/AD7689は、光トランシーバやウェアラブル型の医療機器、高精度の検知/ 監視が可能な携帯型計測器など、高いチャンネル密度が求められるアプリケーションに最適です。

図7に、AD7689で多重化を実現したデータ・アクイジション・システムのブロック図を示しました。このADCは、使いやすく柔軟性の高い構成オプションと高い精度を提供します。また、このADCを採用することにより、チャンネル間のスイッチング、シーケンシング、セトリング時間に関連する設計上の複雑な問題を解決できるので、設計期間の短縮を実現可能です。

Figure 7
図7 . AD7689の標準的なアプリケーション構成( 接続とデカップリングは一部省略)

マルチチャンネルを利用する多重化アプリケーションでは、必要なスループット・レートによっては、出力インピーダンスの低いバッファを使用してマルチプレクサ入力からのキックバックを処理しなければならない場合があります。SAR型ADCとADCドライバは、サンプリング周波数よりも高い入力帯域幅に対応します(それぞれ数十MHzと数十~数百MHz)。これに対し、求められる入力信号帯域幅は、一般的には数十Hz~数百kHzの範囲になります。そのため、システムの要件によっては、マルチプレクサの入力部に、アンチエイリアシング用の単極RCローパス・フィルタを配置する必要があります。それにより、不要な信号を除去し、対象帯域に折り返し(エイリアス)が生じないようにします。加えて、ノイズを低減するとともに、セトリング時間の問題を緩和します。帯域を制限しすぎると、セトリング時間に影響が生じ、歪みが増大してしまいます。そのため、各入力チャンネルで使用するRCフィルタの定数値は、次のようなトレードオフに基づいて慎重に選定する必要があります。例えば、容量の値を大きくすると、マルチプレクサからのキックバックを効果的に減衰させることができます。その一方で、前段のアンプの位相余裕が低下して不安定になる可能性があります。RCフィルタには、Q値が高く、温度係数が小さく、電圧の変化に対して安定した電気的特性を備えるC0GまたはNP0のコンデンサを使うべきです。直列抵抗の値については、アンプの安定性を維持し、その出力電流を抑えられるようにしなければなりません。抵抗の値が大きすぎると、マルチプレクサのキックバック後に、ADCドライバによってコンデンサを再充電できなくなります。

コンパクトなサイズ

AD7682とAD7689はパッケージとして2.39mm×2.39mmのWLCSPを採用しています(両製品にはピン互換性があります)。このパッケージは、既存の4mm×4mmのLFCSPや同じクラスの競合他社製品と比べて60%以上、サイズが小さくなっているため、フットプリントの小さいシステムにおける回路の密度をより高めることができます。図8は、このWLCSPがいかに小さいかを示したものです。同パッケージを標準的な6mmの鉛筆と比較しています。

Figure 8
図8 . WLCSP を採用したAD7682/AD7689のWLCSPと標準的な鉛筆の比較

AD7682/AD7689のパッケージ内では、ダイのアクティブ面を反転させて配置しているため、ハンダ・ボールによってプリント回路基板に接続できます。図11はプリント回路基板に実装後の寸法を示したものです。プリント回路基板に実装した後、ダイの表面と基板の間の距離(スタンドオフ)は、基板上にプリントされたハンダ・スクリーンの量とパッド径によって異なります。

Figure 9
図9 . AD7682 / AD7689を基板に実装した後の寸法

少ない消費電力

AD7682/AD7689には、アナログ/デジタル・コア用の電源VDDが必要です。また、両製品は、1.8V~VDDの範囲で動作する任意のロジックに対応するためのデジタル入出力インターフェースを備えています。このインターフェース向けに電源VIOも供給する必要があります。VDDピンとVIOピンを短絡すれば、システム内で必要な電源電圧の数を減らすことも可能です。両電源ピンは、電源シーケンスに依存しません。5VのVDDと1.8VのVIOを電源として使用することから、両製品の消費電力はスループット・レートに比例し 、非常に少なく抑えられます。図10に示すように、5Vの外部リファレンスを使用する場合、消費電力は100SPSで約1 . 7 μ W( 標準値) 、250kSPSで約12.5mWとなります。このように、両製品は電力効率が高く、サンプリング・レートが高い場合と低い場合の両方に適しています。数Hzのレベルの低いサンプリング・レートや電池で駆動する携帯型システムにも最適です。両製品は、各変換フェーズの終わりに自動的にパワーダウンするという特徴を備えています。標準的なスタンバイ電流はわずか50nAなので、デバイスを使用していない時には消費電力を削減し、電池の持続時間を延伸することが可能です。

Figure 10
図10 . AD7682/AD7689の動作電流とスループットの関係

高い精度

AD7682/AD7689を複数必要とするアプリケーションでは、内部リファレンス・バッファを使用して外部リファレンス電圧をバッファし、逐次変換に伴うクロストークを削減するとよいでしょう。内部リファレンスは4.096Vまでなので、5Vの外部リファレンスを使用すればS/N比を最大化することができます。5Vの外部リファレンスを使用し、サンプル・レートを250kSPSとして2kHzのトーンを入力した場合、INL(積分非直線性)は±1.5LSB、SINAD(信号/ノイズ+歪み)は約93dB、ENOB(有効ビット数)は約15.2ビットと、優れたAC/DC性能が得られます。図11に、外部リファレンス電圧を変更した場合の標準的なS/N比、SINAD、ENOBを示しました。

Figure 11
図11 . AD7682/AD7689 のS / N 比、SINAD、ENOBとリファレンス電圧の関係

まとめ

次世代のプラガブルな光トランシーバ・モジュールや携帯型のシステムには、電力効率に優れた小型で低コストのデータ・アクイジション・システムが必要になります。業界をリードする集積度と精度を備えるAD7682/AD7689は、多様なセンサー・インターフェースに対応します。また、ユーザーからの非常に厳しい要件を満たしつつ、他社とは一線を画したシステムを構築するための手段を設計者に提供します。高い電力効率を誇る両製品 は、既存のLFCSPや競合製品と比べてサイズが60%以上削減されています。しかも、高いサンプル・レートと低いサンプル・レートの両方に適しています。両製品を使用することにより、スペースに制約のあるアプリケーションにおいて、回路の実装密度と消費電力の問題に対処することが可能になります。

著者

Maithil Pachchigar

Maithil Pachchigar

Maithil Pachchigarは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。産業&マルチマーケット事業部門(マサチューセッツ州ウィルミントン)に所属しています。2010年に入社して以来、高精度のシグナル・チェーン向けソリューションを担当。計測分野、産業分野、ヘルスケア分野のお客様をサポートしています。半導体業界には2005年から携わっており、数多くの技術資料を執筆/共同執筆してきました。インドのセダー・バラブヒバイ国立工科大学で電子工学の学士号、サンノゼ州立大学で電気電子工学の修士号、シリコン・バレー大学で経営学の修士号を取得しています。