Thought Leadership

Thomas Brand
Thomas Brand,

フィールド・アプリケーション・エンジニア

著者について
Thomas Brand
Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門領域とし、中央ヨーロッパにおいてこれに関連した事項の支援を行っています。ドイツのモースバッハにあるUniversity of Cooperative Education(UCE)で電気工学を専攻。その後、ドイツのコンスタンツ応用科学大学 大学院で国際営業を学び、修士号を取得しました。
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エレクトロニクス業界にとって、 なぜインダストリー 4.0 は重要なのか?


現在、製造業界ではデジタル化による変革がフルスピードで進 行しています。その状況を反映して、IoT(Internet of Things) 、あるいは IIoT(Industrial IoT)、スマート・ファクトリー、 サイバー・フィジカル(プロダクション)システムといった用 語が飛び交っています。そうしたなかで最も勢いのあるコンセ プトが、ドイツの「Industrie 4.0」です。日本を含む他の国で は、「インダストリー 4.0(Industry 4.0)」と呼ばれていま す。

ただ、インダストリー 4.0 とはどのようなものなのか正確に理 解している人は必ずしも多くありません。明確な定義がなされ ていないこともあり、異なる多くの解釈が存在しているからで す。多くの人にとって、インダストリー 4.0 に向けた変化はす でに日常の一部になっています。また、目新しいものに対する 概念は、日々崩れていく傾向にあります。産業界では、デジタ ル化やネットワーク化といった言葉が古くから頻繁に使われて きましたが、これらの技術だけで状況が大きく変化したという ことではありません。

ドイツの例に注目すると、インダストリー 4.0 というコンセプ トの大部分は、政策によって形作られました。それ以外の国で は、ドイツのコンセプトが自国の経済や競争力に良い影響を及 ぼすことを認識したうえで、さらに革新を進められるものを考 案するということが行われました。例えば、産業用オートメー ション、機械設備の運用現場、工場の作業工程などの分野にお いて、サプライヤの観点とユーザ企業の観点を盛り込んだ戦略 が行政によって推進されています。メーカーにとっては、効率 的でインテリジェントな新しい技術を、自社の製造工程に取り 入れることが重要になります。他方、そうした技術や製品が市 場に送り出される必要もあります。

インダストリー 4.0 は、新しい技術やインテリジェントな製品 を生み出すことを促進するだけのものではありません。そうで はなく、製造部門の革新につながるコンセプトです。そのこと から、目まぐるしく変化して複雑さを増す既存/新規の市場に 対処しなければならない状況をも生み出します。複数の分野で 役割を担うことのできる企業は、特に優位な状態でスタートラ インに立つことができるでしょう。

半導体業界の企業にとっては、特にそのような状態になりやす いと言えます。当社(アナログ・デバイセズ)のような半導体 メーカーは、自社の製造ラインを、フルオートメーション化さ れたスマート・ファクトリーに転換するための複雑な取り組み を進めています。また、当社の場合、製造業界の企業が製造施 設をスマート・ファクトリーに転換させることを支援するため の革新的な技術も提供しています。ただ、このような転換に着 手する場合には、その付加価値について事前に理解しておくこ とが重要です。転換に成功すれば、生産性の向上とそれに伴う コストの削減という見返りが得られますが、そのための取り組 みにはかなりの労力が必要になるからです。

インダストリー 4.0 によってもたらされるものは、製造工程の 変化や技術の進化だけではありません。新しいビジネス・モデ ルを構築する必要性がより高まるという状況も生み出されま す。インダストリー 4.0 については多くの議論が交わされ、さ まざまな解釈が行われています。その成果は、新しい技術、新 しい製品、新しいビジネス・モデルという 3 つの項目に大きく 分類することができます。それらすべての項目によって、製品 とその製造工程のバリュー・チェーン全体が網羅されます。セ ンサー・ノードに始まり、クラウドを介して、下流のサービス へとつながるバリュー・チェーンです(図 1)。

Figure 1. Today’s signal chain.
図 1. 現在のシグナル・チェーン

一般に、現実世界に対するリンクは、何らかの形態のセンサー またはアクチュエータを備えるノードによって確立されます。 多くの場合、ノードのデバイスにおける入出力信号は非常に小 さなものです。そうした信号を、大きなノイズが存在する厳し い環境でやりとりするということになります。取得した信号に 対して何らかの処理や変換を施したうえで、シグナル・チェー ンの次のリンクに転送する必要があります。

このような状況に対処するためには、図 1 のシグナル・チェー ンに変更を加えなければなりません。図 1 では、未処理のデー タをそのままクラウドに転送しています。それに対し、図 2 で は、ノードにおいてデータに対するより多くの処理を行い、そ の結果をクラウドに送信しています。このような変更が必要に なるということです。

Figure 2. Tomorrow’s signal chain.
図 2. 将来のシグナル・チェーン

データに対して変換処理を施した結果、得られるのは情報で す。つまり、より多くの洞察と知識がノードで生成されるとい うことです。このようなインテリジェントなスマート・センシ ング技術により、システム全体としての消費電力を抑えること ができます。また、帯域幅を無駄に消費することも避けられま す。さらに、受動的な IIoT から、リアルタイム対応が可能な予 測型の IIoT への移行を進めることができます。

このような形態に向けては、さまざまな技術を適用する必要が あります。多くの半導体メーカーは、すでにコア・コンピテン シーを確立しています。ただ、それを継続的に改良していかな ければなりません。

また、エネルギー効率も重要です。半導体メーカーには、その 専門知識を活用し、自社製品だけでなく、自社の設計技術やプ ロセス技術をさらに進化させていくことが求められます。IIoT のソリューションにおいては、ネットワークへの接続が重要な 要素になります。有線と無線の両方の技術に対する需要は、今 後ますます高まります。そのため、そうした技術に対応する製 品をポートフォリオに含めておく必要があります。

システム・レベルでさらに深く検討を行い、垂直型のセグメン トを定めれば、より完全なシステムを顧客に提供することがで きます。完全なハードウェア・プラットフォームを実現するに ノード クラウド 接続 解析と予測 解釈 将来 検出計測 は、ノードそのものに加え、ノード用のソフトウェア・パッケ ージも提供する必要があります。そのパッケージには、ノード でデータに対する解析処理を行い、その結果を情報としてネッ トワーク(クラウド)に送信するためのアルゴリズムが含まれ ていなければなりません。

インダストリー 4.0 は、興味深い重要なテーマです。ただ、半 導体メーカーはかなり慎重に選択を行わなければなりません。 顧客のニーズやアプリケーションの要件を適切に満たすために は、自社の技術や強みをどこに適用すべきなのかといったこと を把握しなければならない段階にあります。

IIoT の市場における新たな要件

I製造業界のバリュー・チェーンについて考えてみると、今後、 市場における要件は変化していくことが予想されます。そのた め、半導体メーカーは、自社の組織と製品を現実のスマート・ ファクトリーに適応させていかなければなりません。この分野 では、インテリジェントで非常に効率的な製品を実現すること が技術的なトレンドになっています。また、可能であれば、セ キュリティ/安全性に関する機能やエナジー・ハーベスティン グの機能を実装することが求められます。そうしたデバイス( 完全なシステムとも言えます)の構成例を図 3 に示しました。 この例では、アナログ・デバイセズの MEMS 加速度センサー 「ADXL356」を使用しています。

 Figure 3. MEMS-based smart-sensor-solution.
図 3. MEMSベースのスマート・センサー・ソリューション

ADXL356 は、消費電力、ノイズ、オフセット・ドリフトを抑え た 3 軸 MEMS 加速度センサーです。ハーメチック・シール・パ ッケージを採用していることから、過酷な環境において高い精 度で傾斜を測定したい用途に適しています。また、長期にわた ってバッテリで駆動するといった理由から消費電力に制約のあ るワイヤレス・センサー・ネットワークで実施される高性能の 計測に最適です。また、そうしたアプリケーション領域では、 状態監視や予知保全に対する期待が高まっています。どちらも インダストリー 4.0 に大いに関連する技術です。それらの技術 では、特に機械部品の損傷レベルを判定する処理が重要な意味 を持ちます。例えば、永続的または定期的に振動に関する診断 を行うといったことが行われます。/p>

スマート・センサーのソリューション(図 2)では、ADXL356 のような加速度センサーがシステム全体の基盤になります。そ れに加えて、A/D コンバータ、マイクロコントローラ、絶縁用 のインターフェースやワイヤレスのインターフェースも含むさ まざまなアナログ/デジタル・インターフェースなどによって システムが構成されます。加速度センサーの周辺では、これら の構成要素による信号処理が実行されます。ワイヤレス・イン ターフェースは、最大限の信頼性を備えるとともに、イーサネ ット、6LoWPAN、WirelessHART などの通信規格をサポートし ている必要があります。特に 6LoWPAN と WirelessHART に対 しては、SmartMesh IPTM や SmartMesh® WirelessHart といった ワイヤレス通信ネットワークが非常に適切なソリューションに なります。SmartMesh IP は 6LoWPAN の規格に準拠しており、 すべてのノードでネイティブに IPv6 のアドレスを指定するこ とができます。そのため、センサーで取得したデータにクラウ ドから簡単にアクセスすることが可能です。一方、SmartMesh WirelessHart は、WirelessHART の規格(IEC 62591)に準拠し ています。WirelessHART は、異なるベンダーから提供される同 規格対応製品が、産業アプリケーションで相互運用性を確保で きるようにすることを目的として設計されています。どちら も、AES-128 によるエンド to エンドの暗号化を採用した非常に 信頼性の高いデータ伝送を実現可能であり、最大 5 万ノードま で拡張することができます。

また、このようなシステムの開発過程では、機能安全のことを 無視するわけにはいきません。完全なシステム・ソリューショ ンとしてセキュリティを確保する機能も顧客に提供できるよう に、半導体メーカーは、サイバー・セキュリティ・ソリューシ ョン(CSS)や暗号化などの技術にも投資を行う必要がありま す。

図 3 に示したようなシステムの場合、ボード全体のレベルの回 路を IC として実現することも可能です。そのため、何らかの規 格に対応する標準品といったレベルのチップが、単体で提供さ れることは少なくなります。標準品としての機能は、シリコ ン・ダイに直接集積されるか、SiP(System in Package)とし てパッケージ内に収容された状態になるからです。つまりメー カーは、関連するエコシステムに加えて、チップ・レベルか、 少なくともボード・レベルの深い知識を有している必要があり ます。その結果、顧客は独自のアプリケーション開発に専念 し、競合他社との差別化を図ることが可能になります。

アナログ・デバイセズのようなサプライヤは、他の市場で実証 済みの技術の利用や統合について検討する必要があります。そ れにより、コストの大幅な削減や、ライフ・サイクルの延伸 につながる可能性があるからです。他の製品で成功を収めた 実装技術の一例としては、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が挙げられます。MEMS は、加速度センサー以外の 製品に適用されることは想定されていませんでした。しかし、 現在では「ADGM1304」のような非常に高速なスイッチ製品 にも使用されています。同製品はドライバを内蔵する単極4投 (SP4T)スイッチであり、0 Hz/DC ~ 14 GHz で動作します。 多様な RF アプリケーションで使用するスイッチとして理想的で あるだけでなく、リレーの代わりに使用することも可能です。

このようにして技術を組み合わせれば、そのメーカーにとって は未知の市場の新たなビジネスに参入できるようになるかもし れません。多くの場合、メーカーが有する多様な技術を組み合 わせれば、効率的なアプリケーションを新たに創り出すことが できます。

しかし、半導体メーカーにとっては、センサーなどの半導体デ バイスの種類を単に増やすだけでは不十分です。グローバルな 市場を対象とする半導体メーカーとして認められる状態を維持 しつつ、インダストリー 4.0 の可能性を最大限に引き出すには、 通信技術の分野でポートフォリオを拡充する必要があります。 例えば、産業用オートメーションの分野では、イーサネット、 より正確には Deterministic Ethernet を導入する動きが顕著で す。このような背景から、最近、当社は Deterministic Ethernet を対象とした半導体/ ソフトウェア・ソリューションを 提供する Innovasic を買収しました。この買収によって当社は、 高度に同期が確立されたネットワークにおける堅牢かつリアル タイム対応が可能な接続性に関する専門技術を手に入れること ができました。また、比類ないソフトウェア・ソリューション をポートフォリオに加えることにも成功しました。デジタル化 に向けたトレンドが顕著な状況において、多くの半導体メーカ ーは、アナログ技術から垂直型のシステム分野へと事業を拡大 することを目指しています。つまり、現実の世界とデジタルの 世界の間のインターフェースとなる、完全なシステム・ソリュ ーションを提供することを目標として掲げています。

ただし、そうしたシステムに対する顧客の関心を喚起するに は、多くの要素が重要になります。適切なソフトウェアだけで なく、ツールや、ソフトウェアを取り巻く適切なエコシステム など、顧客に付加価値を与えるものが必要です。今後は、生成 されたデータを解析するための新しいサービスやアルゴリズム の重要性もより高まります。

顧客にとっての付加価値

現在、顧客はより多くのリソースをソフトウェアにつぎ込むよ うになっています。これは、半導体業界全体にとっての明白な 課題です。すなわち、半導体メーカーは、より効率的な開発ツ ール、トレーニングの機会、ドキュメント、サポートを提供し なければならないということを意味します。提供の形態として は、直接的に、エコシステムを通して、あるいは販売代理店を 通してといったものが考えられます。当然のことながら、技術 的に可能だからという理由で、インダストリー 4.0 向けの機能 をすべての製品やシステムに付加するということにはまったく 意味がありません。そうではなく、顧客にメリットをもたらす 重要な付加価値を追加する必要があります。また、その付加価 値について個々の顧客が認識/把握できるようにすることが、 基本的かつ必須の要素でもあります。この点が欠けていると、 顧客はインダストリー 4.0 に対応するアプリケーションの導入 と運用にかかる追加のコストに納得することができません。一 般に、顧客にとって有益な付加価値は、大きく以下の3つに分け ることができます。

  • 時間、リソース、費用の削減による運用効率の向上
  • データ解析の活用による顧客の満足度とロイヤリティの向上
  • ビジネス・モデルの拡張または新規構築による新たな収入源 の創造

インテリジェントな製品が成功するか否かは、その付加価値が 認められるかどうかにかかっています。最終的には、そのこと が、実装に関連するすべての技術的/商業的なパラメータを左 右します。したがって、詳しい分析が必要です。分析の結果、 製品のアイデアが経済的な面で実現可能なものでなかったり、 何らかの理由で少なくとも現段階では実現不可能であったりす ることが明らかになるかもしれません。実現が可能な開発に注 力し、より迅速かつ効果的にシステム構築を行ううえで、メー カーのサポートは非常に重要な役割を担います。メーカーは、 顧客の開発工程に対して専門的な知識や技術を提供します。そ れによって、顧客は余計な作業やコストを減らすことができま す。

自社の中核的な事業に集中し続けることが可能になり、貴重な 時間を専門外の技術の習得に費やす必要はありません。提携を はじめとする協調的な.

躊躇する理由

インダストリー 4.0 とそれに関連する技術は、多くのメリット をもたらします。それにもかかわらず、多くの企業はスマー ト・ファクトリーに向けた投資をまだ行っていません。それは なぜでしょうか。

大きな障壁の 1 つは、スマート・ファクトリーがもたらす最小 限のメリットしか認識されていないことです。また、それに関 連するコストも把握されていないことも問題です。金銭面での 評価基準が存在しないので、現時点では投資利益率(ROI)を 算出するのは非常に困難です。したがって、半導体メーカーは 顧客の認識が深まるような取り組みを行う必要があります。つ まり、スマート・ファクトリーがもたらすメリットを示し、投 資によって得られる価値を説明する資料を提供するといったこ とを行わなければなりません。新しい技術やビジネス・モデル に加えて、マーケティング活動の開発と拡大、定量化の手段の 構築、販売管理に対する投資なども必要になります。

製造部門の変革とともに、データや IT に関連するセキュリティ といった要素の重要性も増します。それらは、インダストリー 4.0 を適切に導入するための重要な要件です。セキュリティに関 する機能をデジタル・システムに実装することは、採用と成功 を促すための不可欠な要素だと言えます。

また、各企業にとって、インダストリー 4.0 の実装初期の段階で は、関連する技術についての経験を集約するために戦略的な道 筋を定めることが重要になります。ただし、この作業には忍耐 が求められます。関連する技術の多くは、5 年~ 10 年、ある いはそれ以上の期間にわたり、最大限に活用できる可能性は低 いからです。その上、明確な定義がないことから、インダスト リー 4.0 が完全に実装される期日というものは存在しません。 インダストリー 4.0 は、「産業革命」というよりも、「産業進 化」とでも呼ぶ方が適切かもしれません。

製造環境に変化が生じたことを契機とし、新規参入企業や競合 企業が現れて市場に影響を及ぼすようにもなるでしょう。新た な提携関係が生まれ、次世代の製造のイメージが明確に具現化 されていきます。また、ソフトウェアやサービスが重要な役割 を担うようになります。メーカーにとって、仮想的な世界と現 実世界を結び付けて融合することだけが、製造能力を最大限に 引き出すための確実な手段になるからです。

とはいえ、半導体メーカーは、過去に成功を収めた、あるいは 今でも成功している既存の事業や製品を軽視すべきではありま せん。そうした主要な製品についてはさらなる開発を進め、適 切な製造能力を維持して今後もサポートし続ける必要がありま す。現在の A/D コンバータや D/A コンバータのアーキテクチ ャは非常に安定しています。そのため、今後も基盤として存続 し続ける可能性が高いでしょう。そうだとしても、そのアーキ テクチャをベースとした改良は必要になるはずです。例えば、 そうした製品をより微細なプロセスで製造しようとした場合、 同等またはそれ以上の性能を達成するのは容易ではないことが あります。

新たなトレンドに沿った緩やかな成長

半導体の業界では、大規模な企業合併が生じています。また、 販売や流通の対象は、部品からシステムへと変化しています。 今後成功を収めるには、インダストリー 4.0 における技術革新 や新規市場の可能性を認識し、自らの立場を再定義する必要が あります。半導体の業界に存在する数少ないチャンスを着実に 活かしていかなければなりません。残念ながら、この業界で売 上高の年間成長率が 30 ~ 40 % にも達していたのは過去のこ とです。そのような急成長は期待できず、2015 年~ 2020 年 の平均年間成長率は、わずか 3.4 % にとどまると予想されてい ます。半導体企業の基本戦略においては、今後の成長はどこか らもたらされるのかということが問題になります。半導体企業 は、この疑問を自らに問いかけなければなりません。

例えば、SiC(シリコン・カーバイド)をベースとするパワー半 導体は、重要な成長源になる可能性があります。その種のデバ イスは、今後の成長を促す重要な製品になるとされています。 シリコン・ベースの一般的な製品と比べて高速、堅牢、高効率 であるため、市場に大きな変化をもたらす可能性があるからで す。SiC と同様に期待されている技術に GaN(ガリウム・ナイ トライド)があります。SiC や GaN をベースとする製品は、ハ イブリッド型/電動型の輸送機器、再生可能エネルギーを利用 する発電システムなど、産業アプリケーションの需要の増加に 伴って、今後数年のうちにかなりの量が使われるようになると 見込まれています。

まとめ

インダストリー 4.0 は、それよりもはるかに大きな概念である IoT の一部です。IoT は、Internet of Everythingとしても知られ ていますが、インダストリー 4.0 も極めて大きな可能性を秘め ています。今後数十年の間に、その市場規模は数兆米ドルのレ ベルに達すると予想されています。インダストリー 4.0 によっ て生産性を向上させることには、あらゆる分野、あらゆる規模 の企業が大きな関心を寄せています。

IoT の市場における可能性を最大限に引き出すには、ハードウェ アを提供するだけでは不十分です。ハードウェアに加えて、ソ フトウェア、サービスで構成されるエコシステムが必要になり ます。このような新たな環境において、小規模でアジャイルな 企業に対しては、より規模の大きい企業との間で協調関係を構 築することが推奨されます。

半導体企業は、インダストリー 4.0 をはじめとする現在のトレン ドを上回るレベルでの開発を怠ってはなりません。従来は 1 つ の市場しか対象になっていなかった技術が、徐々に他の市場に も影響を与えるようになる可能性もあります。その一例が 5G( 第 5 世代移動通信システム)です。従来、5G と言えば、携帯端 末とインフラから成る新たな通信技術の呼称でした。しかし、 将来的に 5G の需要を促進するであろう存在としては、自動車 の市場が有力視されています。自動運転を実現するうえでは、 システム間の通信(データ交換)が特に重要になります。各車 両は、複雑なエコシステムに含まれますが、そのエコシステ ムにおいて通信が重要な役割を担います。そのエコシステムに は、沿道のインフラ、5G のネットワーク、大規模なデータ・セ ンターが含まれます。また、車両は、カメラやレーダー、ライ ダー(LIDAR)などのセンサーによって、周辺環境に関する重 要な情報を取得します。その際には、通信システム全体が連携 する必要があります。自動運転を実現するには、膨大な量のデ ータを、より高速に、小さな遅延で、非常に高い信頼性で処理 しなければなりません。そのことから、既存/構想段階の通信 規格の中では、5G が最も有望であると考えられます。

インダストリー 4.0 は、スマート・ファクトリーに向けた変革 です。インダストリー 4.0 とその実現に必要な技術は、半導体 メーカーに成功をもたらす多大な可能性を秘めています。