スマート・インフラ用のMEMSセンサー

2018年05月18日

タブレット端末やスマートフォン、ビデオ・ゲーム機、ビデオ・カメラ、カメラは、センサーの世界に革命をもたらしました。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサーやジャイロ・センサーが大きな進化を遂げることになったからです。それらのセンサーを使用することにより、機器の動きを検出することができます。その能力により、多くの機器で機能の充実と性能の向上が図られるようになりました。

加速度センサーの需要の増加を促進したのは民生用のアプリケーションです。ただ、他の市場でもそれらのセンサーが使われる例が増えています。各種の処理のデジタル化やIoT(Internetof Things)の出現に伴い、センサーは、産業分野のインフラ向けアプリケーションにおいて、なくてはならない存在になりつつあります。なかでも、MEMSセンサーは、状態監視や構造物の健全性の監視(構造物モニタリング)に欠かせない要素となっています。そうした新たなアプリケーションが登場したことにより、性能と信頼性について独特な水準が設けられるようになりました。

スマート・インフラ

スマート・インフラの構築にデジタル化を利用することには、多くのメリットがあります。例えば、能力、効率、信頼性を高められるといった具合です。スマート・インフラを構築すれば、投資やリソースの増加に頼ることなく、より良いサービスやよりターゲットを絞ったサービスを顧客やユーザに提供することができます。また、インフラがネットワークに接続されていれば、将来のインフラをより効率的に設計/実装する際に役立つデータを収集することが可能です。インフラにインテリジェンスを組み込むことにより、メンテナンスに関する主要な課題に効果的に対処できるようにもなります。MEMSセンサーは、構造物モニタリングにおいて極めて重要な役割を担います。MEMSセンサーを使用することにより、過酷な条件下でも傾斜の変動、振動、直線運動/円運動を測定することができます。つまり、MEMSセンサーは、予知保全を可能にし、利用できるリソースをより有効に活用して、サービスにかかわる故障やサービスの中断を回避することに貢献します。アナログ・デバイセズは、MEMS技術に関する深い専門技術を有しています。また、スマート・インフラを支える同技術に多大な投資を行ってきました。

ADXL35x ―― MEMS 加速度センサーの製品ファミリー

アナログ・デバイセズは、低ノイズ、低消費電力を特徴とする3軸加速度センサー「ADXL35x」を提供しています。この製品ファミリーは、次の4製品で構成されています。

  • ADXL354:アナログ出力
  • ADXL355:デジタル出力、±2g/±4g/±8gの各範囲でプログラム可能
  • ADXL356:アナログ出力
  • ADXL357:デジタル出力、±10g/±20g/±40gの各範囲でプログラム可能

これらの製品は、IMU(慣性計測ユニット)、プラットフォームの安定化システム、傾斜計、予知保全システムなどに最適です。ミッドレンジからハイエンドの製品に分類され、地震に関するマッピングや、産業用/インフラ用の予知保全など、非常に要件の厳しいセンサー・アプリケーション向けに設計されています。

図1. MEMS加速度センサー「ADXL356」、「ADXL357」

構造物モニタリング用の高度な機能

状態監視や構造物モニタリングに使う加速度センサーについては、測定範囲が重要なパラメータになります。例えば、ピークの加速度が数g程度のアプリケーションであれば、測定範囲が2gの加速度センサーで十分です。しかし、構造物モニタリングのような用途では、加速度センサーの飽和につながる強い振動や衝撃が生じるケースが少なくありません。加速度センサーは、一旦飽和すると正確な値を測定することができません。つまり、正常に動作できる状態に復旧するまでのデータは失われてしまうことになります。このような場合には、測定範囲が40gのセンサーを採用するべきでしょう。そうすれば飽和に達する可能性は低くなり、大きな機械的ノイズが存在する環境においても、適切な信号処理によって必要な情報を抽出することができます。

インフラに関連する用途では、多くの場合、センサーは遠隔地やアクセスしにくい場所に配置されます。そのため、ワイヤレス・センサー・ネットワークが最良のソリューションとなります。このことから、消費電力が少ないことがもう1つの主要な要件になります。ADXL35xの消費電流は、スタンバイ・モードでわずか21µAです。測定モードでは、アナログ出力の製品で150µA、デジタル出力の製品で200µAです。デジタル出力品であるADXL355/ADXL357の場合、ホストのマイクロコントローラがスリープ・モードに入っている間のデータはFIFO(First In, First Out)メモリに格納されます。FIFOメモリがいっぱいになったら、割り込みによってマイクロコントローラを起動し、データを転送して、要求された動作を実行します。転送が完了すると、マイクロコントローラは再び消費電力の少ないスリープ・モードに戻ります。それによって、消費電力が非常に少ない状態が維持されます。

一般に、消費電力を少なく抑えるには、速度やノイズといった他の要素を犠牲にする必要があります。ADXL35xの場合、スペクトル・ノイズ密度は、小さいgに対応する製品で20µg/√Hz、大きいgに対応する製品で80µg/√Hzに抑えられています。加えて、内部アーキテクチャにより、加速度センサーとしての感度が最適化されています。図2に、アナログ出力品とデジタル出力品のブロック図を示しました。センサーからの信号は、アナログ・フィルタを通過した上で後続段で処理されます。アナログ出力品では、フィルタの後段、言い換えると出力の直前には、バッファと32kΩの抵抗があります。ここでさらなるフィルタリングの効果を得ることができます。一方、デジタル出力品はプログラマブルなデジタル・フィルタを備えています。ローパス・フィルタとしての機能については、カットオフ周波数が出力データ・レートに応じて調整されます。また、バンドパスの機能を実現するために、ハイパス・フィルタの機能を挿入することも可能です。状態監視の用途では、振動のスペクトル解析が主要な機能になります。この機能では、高次の高調波をキャプチャするための広い帯域幅が重要な意味を持ちます。ADXL35xの機械的な共振周波数は約5.5kHzですが、周波数応答は主にカットオフ周波数が1.5kHzのアンチエイリアシング(折返し誤差防止)フィルタによって決まります。望ましい分解能を得るために、A/D変換は分解能が20ビットのシグマ・デルタ(ΣΔ)コンバータによって行います。これらの機能ブロックにより、ADXL35xは、地震活動の記録にも使用できる製品となっています。

図2. ADXL356とADXL357のブロック図

構造物モニタリングでは、建物、橋梁、線路、高電圧用の鉄塔など、任意のインフラの構成要素を監視します。この用途では安定性が非常に重要です。測定したいのは構造物のドリフトであり、測定用のデバイスのドリフトではありません。

センサーの長期安定性には、機械的なストレスが影響を及ぼします。溶着を行う際に印加される機械的なストレスは、電気的なオフセットにつながる恐れがあります。この種のストレスは時間の経過と共に変化する可能性があり、それによってオフセットにドリフトが生じます。このドリフトが、誤って、傾斜やその他の構造パラメータの変動として解釈されるケースがあります。この問題を回避するために、ダイに接着する作業は、細心の注意を払って行う必要があります。

パッケージの選択も重要です。民生用アプリケーションでは、プラスチック・パッケージが広く用いられています。それに対し、ADXL35xは、機械的なストレスに対する保護性能が格段に優れる14ピンのセラミックLCCパッケージを採用しています。このパッケージは密封性が高く、水分や粒子の混入を防ぐことができます。このことも長期安定性につながります。

加速度センサーは、通常動作時に様々な環境条件にさらされます。特に温度と湿度はその性能に影響を及ぼす恐れがあります。湿度については、14ピンのハーメチックLCCパッケージを採用していることから、最悪の条件下でも安定した動作が保証されます。動作温度範囲は-40°C~125°Cです。つまり、極端な温度環境下でも動作するように最適化されています。また、最も重要なパラメータであるオフセットのドリフトを最小限に抑えるために特別な工夫が施されています。3軸共に、最大ドリフト(保証値)は、低gに対応するADXL354/ADXL355で±0.15mg/°C、高gに対応するADXL356/ADXL357で±0.75mg/°Cです。各製品は、ドリフトの温度補償に使用可能な温度センサーを内蔵しています。

表1. 加速度センサー製品群の主な仕様
ADXL354 ADXL355 ADXL356 ADXL357 ADXL1001 ADXL1002 ADXL1004
フルスケール範囲〔g〕 ±2 to ±8 ±2 to ±8 ±10 to ±40 ±10 to ±40 ±100 ±50 ±500
軸数 3 3 3 3 1 1 1
出力 アナログ デジタル アナログ デジタル アナログ アナログ アナログ
帯域幅〔kHz〕 1.5 1 1.5 1 11 11 24
共振周波数〔kHz〕 2.4 2.4 5.5 5.5 21 21 45
ノイズ密度〔µg/√Hz 20 20 80 80 30 25 125
セルフ・テスト
測定モードにおける消費電流 150 µA 200 µA 150 µA 200 µA 1 mA 1 mA 1 mA
温度範囲〔°C〕 –40 to +125 –40 to +125 –40 to +125 –40 to +125 –40 to +125 –40 to +125 –40 to +125

まとめ

現在は、民生用アプリケーション以外の分野でもMEMSセンサーの需要が拡大している状況にあります。言い換えれば、産業分野やインフラの分野では新たな機会が創出されています。これらの分野で使用されるアプリケーションでは、信頼性と性能が何よりも重視されます。アナログ・デバイセズは、過酷な環境下で、高いレベルの性能と信頼性を発揮することが可能なソリューションの研究/開発に注力してきました。ADXL35x以外にも、極めてノイズが小さく、最大24kHzまでの非常に広い帯域幅をサポートする高g対応の加速度センサー製品ファミリーを提供しています。表1に示した「ADXL1001」、「ADXL1002」、「ADXL1004」がそれに当たります。



著者について

Cosimo Carriero
Cosimo Carrieroは、2006年にアナログ・デバイセズに入社しました。戦略的な意味で重要な顧客に対して技術サポートを提供するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして業務に従事しています。イタリアのミラノ大学で物理学の修士号を取得しています。これまでに、イタリア国立核物理学研究所(INFN)などにおける核物理学用計測器の定義と開発、小規模企業との連携、FA用のセンサーやシステムの開発、Thales Alenia Spaceに...
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