高周波車載用電源
要約
高周波スイッチングと高電圧性能を同時に実現することは、IC設計では困難です。ただし、瞬時的な高電圧状態から保護すれば、高周波で動作する車載用電源を設計することは可能です。最新の自動車には、ますます多くの電子機能が内蔵されるようになっているため、それに応じて高周波動作が重要になりつつあります。この記事では、自動車の厳しい電気環境の影響から低電圧の電子回路を保護するためのいくつかの方法について説明します。また、ノイズ耐性に関する実験室でのテスト結果についても述べます。
はじめに
自動車における電子回路の高密度化は、電源システムの設計者に他に例をみない課題と可能性を提示します。多くの車載モジュールは、5Vや3.3Vなどの低電圧を必要としますが、バッテリ電圧を低減するためにリニア電圧レギュレータを使用すると、大幅に電力を消費します。過度に電力を消費すると、熱管理が困難になり、また多大の費用がかかります。この結果、高速プロセッサとASICに対する電力要件が増大することになり、電力変換の優先方式は、簡単で低コストであるけれども効率の悪いリニアレギュレータから、複雑であるけれども効率に優れたスイッチングコンバータに向けられることになりました。
スイッチングコンバータの長所
パワーインダクタやパワーコンデンサなどの受動部品は、高周波スイッチングで物理的に小さくすることができるため、スイッチングコンバータのサイズは、スイッチング周波数によって決まります。電力消費を低減することによって、高効率コンバータは、大きくて扱いに高価なヒートシンクをなくすこともできます。したがって、スイッチングコンバータを使用すると、電源全体のサイズを小さくすることができます。これらの長所が備わっているため、スイッチングコンバータは、車体エレクトロニクス、インフォテイメントシステム、およびエンジン制御モジュールなどの車載アプリケーションの電源管理にますます魅力的な選択肢となっています。
スイッチングコンバータを選択する上での検討事項
スイッチングコンバータは、スイッチング周波数の選択が重要になります。スイッチングコンバータ固有の一連の問題を引き起こすことになるからです。基本スイッチング周波数とその高調波によって生成される電磁波ノイズは、他の電子部品に干渉する可能性があります。たとえば、AMラジオ受信機は530kHz~1710kHzの範囲の干渉に影響を受けます。したがって、1710kHzよりも大きなスイッチング周波数であれば、AM周波数帯域から基本と高調波の干渉をなくすことができます。テストデータによれば、マキシムのデバイスのように簡単なプロテクタを装備した中電圧で高周波のプロセスは、車載用電源管理のニーズに対応する優れたソリューションになります。最後に、明らかなことですが、設計者はこれらのスイッチングコンバータを設計するのに高電圧コントローラが必要ではなくなります。
高周波スイッチングは電力損失を増加させることにもなるため、スイッチングコンバータを使用することによる長所が部分的に相殺されます。スイッチング損失は動作電圧の2乗に比例するため、入力電圧が高くなるほど損失は悪化します。あいにく、一般的な車載電源コントローラICは、負荷ダンプやその他の過電圧過渡事象に耐え得る高電圧プロセス(40V以上)が要求されます。高電圧プロセスでは、より大きな形状、より高密なゲート、およびより長いチャネル長が必要となるため、伝播遅延が大きくなります。このような本質的に遅いプロセスも効率を低下させることになります。スイッチでの立上り/立下り時間が長くなると、過渡事象の損失が増大するからです。
マキシムの設計者が利用可能な高性能プロセスは、中電圧レベルで動作する超高速のコンバータに適しています。たとえば、デュアル出力2.2MHzバックブーストコンバータ(MAX5073)は、最大23Vの入力に耐えることができます。コンバータの逆相動作によって、4.4MHzの効率的なスイッチング周波数を得ることができます。
スイッチングコンバータが電源からの干渉を受けないということを考えると、「車載アプリケーションは本当に高電圧性能を備えたICが必要なのか?」という疑問が生じるかもしれません。以下の考察はこの疑問に応えるものであり、車載電源システムに共通する障害について説明し、これらの障害から低電圧電子システムを保護する方法について説明しています。
電力線の過電圧ストレス状態
過電圧保護(OV)デバイスは、車載電気システムへの電気接続部、特に主電圧源への接続部によって伝導される過度の電圧から電子回路を絶縁して保護します。伝導障害に耐える機能は、伝導イミュニティとして知られています。
自動車製造業者および規格団体は、電子部品やシステムの伝導イミュニティを評価するためにさまざまなテスト方式を規定しています。自動車OEMは特定の要件を規定する傾向がありますが、これらの規定のほとんどはISO7637規格に基づいたものです。車載アプリケーションに関する一般的なOV状態の概要を以下に示します。この概要は、すべての伝導イミュニティ要件を包括的に説明するものではありません。
定常状態のOV状態
ある特定のOV状態は、電子回路の観点から定常状態とみなされるだけの長い持続時間を生じます。1つの例として、関連する電子デバイスの熱時定数より長く持続するOV状態があります。これらの状況では、連続的な電力消費、および結果として生じる温度上昇が主要な問題となります。定常状態としては、正常に機能しないオルタネータレギュレータ、「ダブルバッテリジャンプスタート」、およびリバースバッテリの接続があります。以下に、それぞれについて簡単に説明します。
正常に機能しないオルタネータレギュレータ。オルタネータの出力は、界磁巻線の電流の大きさを調節することによって、速度、負荷、および温度について調整します。この調整は通常、電子回路(電圧レギュレータ)によって行われますが、これは、オルタネータの界磁巻線をパルス幅変調(PWM)することによって、一定の調整されたオルタネータ出力が保証されます。電圧レギュレータ出力の標準設定値は13.5Vです。ただし、電圧レギュレータは、全界磁電流が加わるような場合、負荷や出力電圧の状態に関わらず正常に機能しない場合があります。
障害が生じると、システム全体の電圧が標準の13.5Vを超えてしまうことがあります(実際の電圧レベルは、自動車の速度、負荷、およびその他の条件によって異なります)。正常に機能しないレギュレータに対する標準的なOEMのテスト要件は、1時間で18Vです。ほとんどのシステムは、このテストのストレスに耐えることが求められます。ただし、ある程度の快適性や利便性に関わる機能は、通常動作から外れることが許されます。
ダブルバッテリジャンプスタート。もう1つの定常状態のOV状態はダブルバッテリジャンプスタートで、レッカー車または他のサービスマンが故障車をジャンプスタートさせるため、または空のバッテリを充電するために24Vを使用するときに生じます。この状態に対する標準のOEMテスト要件は、2分間で約24Vです。安全性とエンジン管理に関係する一部のシステムは、この条件の下で動作することが求められます。
リバースバッテリの状態。定常状態の逆電位が、製造中または修理中に自動車の電気システムに誤って加えられる可能性があります。この状態の場合、ほとんどのシステムは、生き延びることが求められます(ただし、動作しません)。標準的な要件は、1分で-14Vです。このテストは、大電流または低電圧降下を必要とするシステムには難題となる場合があります。
過渡OV状態
自動車における過渡OV状態の大半は、誘導性負荷のスイッチングによって生じます。このような負荷としては、スタータモータ、燃料ポンプ、ウィンドウモータ、リレーコイル、ソレノイド、イグニション部品、分布回路インダクタンスなどがあります。これらの誘導性負荷の電流が遮断されると、OVパルスが生じます。このようなOV過渡事象を抑制するために、伴う振幅および継続時間に応じて、フィルタ、金属酸化物バリスタ(MOV)、または過渡電圧サプレッサが使用されます。図1から図4は、ISO7637規格に基づく抑制要件を示しています。表1は、実際のOEM要件の代表的な一覧で、主にISO7637規格に基づいています。
図1. 反復スイッチング動作に応じて、この回路は、振幅が-80V~-150Vで持続時間が1ms~140msの反復型の負パルスを生成します。標準ソースインピーダンスは5Ω~25Ωです。
図2. 反復スイッチング動作に応じて、この回路は、振幅が+75V~+150Vで標準持続時間が50µsの反復型の正パルスを生成します。標準ソースインピーダンスは2Ω~10Ωです。
図3. この回路の反復スイッチング動作は、一連の-150Vで100nsの負パルス(パルス3a)と、一連の100Vで100nsの正パルス(パルス3b)を生成します。ソースインピーダンスは50Ω (typ)です。
図4. 放電して上がってしまっているバッテリに大電流を給電している間にオルタネータを急に切断すると、負荷ダンプパルスが生じます。電流が急激に減少すると、システムのエネルギーを維持するためにオルタネータの出力端に高電圧が生じます。この過渡事象の持続時間は、オルタネータの界磁回路の電気時定数とレギュレータの応答時間によって決まります。
表1. OEMによって異なる伝導イミュニティテスト*
Pulse Type | OEM#1 | OEM#2 | OEM#3 | OEM#4 | OEM#5 | OEM#6 | OEM#7 | OEM#8 | |
Pulse 1 | Td | 2ms | 2ms | 2ms | 2ms | 5ms | 50µs | 140ms | 46ms |
Vp | -100V | -100V | -100V | -150V | -100V | -100V | -80V | -80V | |
Rs | 10Ω | 10Ω | 10Ω | 10Ω | 25Ω | 10Ω | 5Ω | 20Ω | |
Pulse 2 | Td | 50µs | 50µs | 50µs | 50µs | 2ms | 5.7µs | ||
Vp | 150V | 50V | 100V | 75V | 200V | 110V | |||
Rs | 4Ω | 2Ω | 10Ω | 2Ω | 10Ω | 0.24Ω | |||
Pulse 3a | Td | 100ns | 100ns | 100ns | 100ns | 100ns | 4.6ms | ||
Vp | -150V | -150V | -150V | -112V | -150V | -260V | |||
Rs | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 34Ω | |||
Pulse 3b | Td | 100ns | 100ns | 100ns | 100ns | 100ns | |||
Vp | 100V | 100V | 100V | 75V | 100V | ||||
Rs | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 50Ω | 50Ω | ||||
Pulse 5 | Td | 300ms | 400ms | 300ms | 120ms | 500ms | 380ms | ||
Vp | 50V | 100V | 43.5V | 80V | 70V | 60V | |||
Rs | 0.5Ω | 2Ω | 0.5Ω | 2.5Ω | 0.5Ω | 0.75Ω |
前述のように、低電圧で高性能のスイッチングコンバータにじかにバッテリ電圧を供給することはできません。その代わり、バッテリは、ほとんどの場合、MOVなどの過渡電圧サプレッサまたはバイパスコンデンサに接続され、その後に従来の入力電圧リミッタが続きます。これらの単純な回路は、pチャネルMOSFETを中心に構築されています(図5a)。pチャネルMOSFETの定格は、VBAT入力端で想定される電圧過渡事象の想定レベルに応じて50Vまたは100Vにする必要があります。
12Vツェナーダイオード(Z1)によって、MOSFETゲート-ソース間の電圧がVGSMAXを超えないようにしています。MOSFETは、入力電圧(VBAT)がツェナーZ2の降伏電圧を下回ると、飽和状態で動作します。入力電圧の過渡事象中、MOSFETはZ2の降伏電圧より高い電圧をブロックします。この手法の短所は、高価なpチャネルMOSFET、およびそれに伴う数多くの部品が必要になるという点です。
図5a. この入力電圧リミティング回路(保護回路)のパスエレメントは、pチャネルMOSFETです。
2番目の手法では、NPNトランジスタを使用します。NPNベース電圧は、VZ3にクランプされるため、エミッタ電圧は(VZ3 - VBE)に調整されます。このソリューションは安価ですが、VBEの降下によってPLOSS = IIN x VBEの電力損失が生じます。また、特にコールドクランクの動作中、VBEの降下によって最小限必要なバッテリ電圧の最重要パラメータが向上します(図5b)。3番目のオプションはnチャネルMOSFETを使用します。nチャネルMOSFETは、広く利用可能で安価です。またブロッキングエレメントとして使用可能です。ただし、このゲートドライブは複雑で、VGをソース電圧より高くする必要があります。
図5b. この入力電圧リミティング回路(保護回路)のパスエレメントはNPNトランジスタです。
図5c. この入力電圧リミティング回路(保護回路)のパスエレメントはnチャネルMOSFETです。
図5cのブロック図では、ブロッキングデバイスとしてnチャネルMOSFETスイッチを使用しています。負荷ダンプの間、VBATが設定した制限を超えるとMOSFETは完全にオフになります。その後、VBATが設定電圧を超えた状態である限り、MOSFETはオフの状態を維持します。過電圧保護コントローラ(MAX6398)は、nチャネルMOSFETを制御することによって、自動車の過電圧(負荷ダンプやダブルバッテリ電圧など)から高性能電源を保護します。図6にこの手法を示します。以下の図7~図9は、実験室でのノイズ耐性テストの結果と、nチャネルMOSFETを使用する過渡プロテクタの実際的な実装内容を示します。
図6. フロントエンドのMAX6398保護スイッチとともにMAX5073 2MHzバックコンバータを示します。この設計は、高性能と高耐干渉性を兼ね備えています。
図7. MAX5073デュアルバックコンバータのスイッチング波形と入力リップルを示したテスト結果です。各コンバータのスイッチング周波数が2.2MHzであるのに対し、入力コンデンサのリップル周波数は4.4MHzです(CH1 = SOURCE2、CH2 = SOURCE1、CH3 = 入力コンデンサのリップル、CH4 = CLKOUT)。
図8Aおよび図8B. パルス5 (80V、120ms、OEM#5)がプロテクタの入力に加えられています。MAX5073はプロテクタの出力に接続されており、コンバータの出力1と出力2がモニタされます。
これらの波形は、図6のプロテクタの出力と2つのコンバータ出力での応答を1s/cm (A)と1ms/cm (B)にて示しています(CH1 = VBAT、CH2 = VPROT、CH3 = 出力1、CH4 = 出力2)。
図9Aおよび図9B。パルス5 (70V、500ms)が図6のプロテクタスイッチ入力に加えられています。MAX5073はプロテクタの出力に接続されており、コンバータの出力1と出力2がモニタされます。
これらの波形は、プロテクタの出力と2つのコンバータ出力での応答を1s/cm (A)と200µs/cm (B)にて示しています(CH1 = VBAT、CH2 = VPROT、CH3 = 出力1、CH4 = 出力2)。
図9で示したように、MAX6398は自動車の負荷ダンプパルスを効率的にブロックし、低電圧で高性能の電子回路に見られる電圧を調整します。プロテクタと、低電圧で高周波の電子回路の組み合わせを使用する方式は、非常に低い周波数で動作する高電圧ソリューションと比較してスペースとコストが削減されます。
同様の記事が「Selezione」誌の2006年12月号に掲載されています。
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