集積化RF周波数ミキサとパッシブミキサのソリューションを比較したときの全体的なカスケード性能について

2006年02月09日

要約

以下のアプリケーションノートでは、集積化RFミキサのソリューションとパッシブミキサのソリューションの特長を比較しています。また、両ソリューションの主な特長について述べ、パッシブソリューションと比較したときの集積化ソリューションの主な利点を説明しています。

従来、RF設計者は、高性能なレシーバ設計を実現するため、パッシブダウンコンバージョンミキサを使用して全体として最良の直線性とスプリアスの性能を得てきました。このような設計でディスクリートのパッシブミキサを使用するときには、いくつかの欠点があります。

パッシブミキサには挿入損失が存在するため、レシーバ全体として所望のノイズ指数性能を確立するためには、RFまたはIFのいずれかの利得段で補償が必要となります。このようなパッシブミキサの場合、集積化ミキサと性能を比較するときには、3次入力インターセプトポイント(IIP3)を考慮するだけでなく、出力の3次インターセプトポイントも考慮する必要があります。パッシブミキサには、集積化バランスミキサ設計のような2次直線性の性能はほとんどありません。これは、レシーバのハーフIFスプリアスを検討する場合には、重要なことです。ミキサの直線性の性能はLO駆動レベルにじかに関係するため、かなり大きなLO挿入信号を生成して、プリント基板上のパッシブミキサのLOポートに転送する必要があります。この信号を増幅するために外付けのRF段が必要となるため、ミキサ設計全体がLOの放射とピックアップの両方のノイズに影響されやすくなります。最後に、一般的にパッシブミキサは、すべての部品がディスクリートの設計となるため、コストが上昇し、プリント基板のスペースが増大し、さらにはディスクリート部品間の許容誤差による性能変動が増大することになります。

集積化(すなわちアクティブ)ミキサ設計は、その性能がパッシブミキサソリューションの性能と匹敵するようになり、ますます普及しつつあります。集積化ミキサはトゥルーバランス(ギルバートセル)設計、すなわち損失ではなく利得をもたらすIFアンプ段を備えたパッシブミキサで構成することができます。集積化ミキサには利得があるため、パッシブミキサの使用時に必要となる、損失補償のための外付けIFアンプ段は必要ありません。マキシムのMAX9993、MAX9981、およびMAX9982など、ノイズ指数性能が優れた集積化ミキサの場合、ミキサ段の前に必要なRF利得が少なくて済むため、レシーバ全体の直線性の性能が向上します。言い換えると、カスケードノイズ指数を最小限に抑えるためにミキサの前に追加する利得を大きくするほど、ミキサの直線性の性能を向上してレシーバ全体の直線性を維持する必要があるということです。マキシムのMAX9993、MAX9981、およびMAX9982ミキサには、さらなる利点としてLO駆動回路が搭載されています。

以下の機能を備えたマキシムの高リニアリティダウンコンバージョンミキサMAX9993を考えてみましょう(図1に示す)。

図1. MAX9993の等価回路
図1. MAX9993の等価回路

PCSとUMTSの周波数帯域におけるMAX9993の定格仕様を以下に示します。

  • 変換利得 = 8.5dB
  • ノイズ指数 = 9.5dB
  • IIP3 = +23.5dBm
  • OIP3 = +32dBm
  • IIP2 = +60dBm
  • OIP2 = +68.5dBm
  • 低LO駆動レベル:0~+6dBm
  • GSMアプリケーション用にスイッチで切替え可能な(SPDT) 2つのLO入力(cdma2000®など切替えのないアプリケーションでは、LOスイッチを固定することが可能)
図2は、パッシブミキサ、IFアンプ、およびLOアンプを使用したディスクリートソリューションを示しています。この図は、シングルエンドの部品を使用することを想定しているため、マキシムの集積化ミキサファミリと比較して2次直線性の性能が劣ることになります。集積化RF周波数ミキサのデータシートを確認するときには、RF回路の設計者は、マキシムの集積化ミキサとの公平な比較を行うため、パッシブ設計における各ディスクリート段の等価カスケード応答を考慮に入れる必要があります。たとえば、設計者は、パッシブミキサの3次入力インターセプトポイントだけに注目するのではなく、3次出力インターセプト性能や、その後に続くIFアンプ段を含む全カスケード応答も考慮しなければなりません。さらに、設計者は、パッシブミキサソリューションの等価利得とノイズ指数を計算し、この結果を集積化ミキサの仕様と比較する必要があります。

図2. ディスクリートミキサ/IFアンプ
図2. ディスクリートミキサ/IFアンプ

各段には次の表記を使用しています。
G = 変換パワー利得
NF = ノイズ指数
IIP3 = 入力3次インターセプトポイント
OIP3 = 出力3次インターセプトポイント

例:
図2を参照してください。利得、ノイズ指数、および3次インターセプトポイントについてMAX9993の性能と等しい全カスケード応答を得るために必要なIFアンプの仕様を計算します。以下に示すような、PCSとUMTSの周波数帯域で定格仕様を持つMini-Circuits® HJK-19MHパッシブミキサを使用するものと想定しています。

G1 = -7.5dB
NF1 = 7.5dB (仮定)
IIP31 = +29dBm
OIP31 = IIP31 + G1 = +21.5dBm

PCSとUMTSの周波数帯域での代表的なシステムパラメータとして、以下に示すMAX9993の代表的な仕様を使用します。
Gsys = 全システム利得 = +8.5dB
NFsys = 全システムノイズ指数 = 9.5dB
IIP3sys = 全システム入力3次インターセプトポイント = +23.5dBm
OIP3sys = 全システム出力3次インターセプトポイント = +32dBm

必要なIFアンプの利得
必要なIFアンプの利得は次式で求められます。

Gsys = 8.5dB

= G1 + G2したがってG2を求めるには、
G2 = Gsys - G1 = 8.5dB - (-7.5dB)
= 16dB

必要なIFアンプのノイズ指数
9.5dBのカスケードノイズ指数の性能を得るため、またパッシブミキサのノイズ指数が7.5dBに等しいと想定して、必要なIFアンプのノイズ指数を求めます。これには、よく知られたカスケードノイズ係数の式「ノイズ指数(dB) = 10 × log (ノイズ係数)」を使用します。ここで「ノイズ係数」は数値です。

NFsys = 9.5dB

= 10 × log (システムのノイズ係数)
= 10 × log (Fsys)
= 10 × log (F1 + (F2 - 1) / G1)

次式を解いてNF2を求めます。
NF2 = 10 × log ((Fsys - F1) × G1 + 1)

= 10 × log ((10^(9.5 / 10) - 10^(7.5 / 10)) × (10^(-7.5 / 10)) + 1)
= 10 × log ((8.91 - 5.62) × 0.18 + 1)
= 10 × log (1.59)
= 2dB

必要なIFアンプの3次インターセプト性能
以下に示すカスケード入力インターセプトの式を使用して、IFアンプのIIP3要件を求めます。

IIP3sys (dBm) = +23.5dBm

= 10 × log (IIP3numeric)
= 10 × log (1 / (1 / 10^(IIP31 / 10) + 10^(G1 / 10) / 10^(IIP32 / 10)))

IFアンプ段の必要な3次インターセプトポイントを求めるために、次式を解いてIIP32を得ます。

IIP32 (dBm) = 10 × log (10^(G1 / 10) × (1 / (1 / 10^(IIP3sys / 10) - 1 / 10^(IIP31 / 10))))

= 10 × log (10^(-7.5 / 10) × (1 / (1 / 10^(23.5 / 10) - 1 / 10^(29 / 10))))
= 17.5dBm

このIIP32の値は、以下に示すように、アンプに対する次の3次出力インターセプトポイントになります。

OIP32 (dBm) = OIP32 + G2

= +17.5dBm + 16dB
= +33.5dBm

カスケードの結果
等価のカスケードパラメータを以下の図3にまとめています。

図3. 所望のカスケード応答を得るためのパッシブミキサとIFアンプの値
図3. 所望のカスケード応答を得るためのパッシブミキサとIFアンプの値

計算したIFアンプの仕様からわかるように、16dBの利得と2dBのノイズ指数を併せ持つIFアンプを得ることは難しく、さらに、このディスクリートソリューションを使用してMAX9993の優れた2次直線性の性能を実現することも困難です。また、Mini-Circuits HJK-19MHミキサを駆動するのに必要な+13dBmのLO駆動レベルを生成するためには、少なくとも1つ、場合によっては2つの外付けLOアンプが必要となります。

結論
賢明なレシーバ回路の設計者は、集積化ミキサソリューションを使用するという考えを簡単に諦めるのではなく、最初にディスクリートソリューションの等価カスケード性能を計算し、これをマキシムの集積化ミキサと比較することが必要です。上述のようにディスクリートミキサソリューションに比べて集積化ミキサソリューションを使用することの利点は明白です。これら2つのソリューションを比較するときに考慮すべき最も重要なパラメータは、変換利得、ノイズ指数、および直線性(主に2次および3次)です。このアプリケーションノートでは、これらのカスケードパラメータを計算するための適切な方法について説明しました。

参考資料

  1. Ralph S. Carson 「Radio Concepts Analog」、Wiley (1990年)
  2. Peter Vizmuller 「RF Design Guide Systems, Circuits, and Equations」、Artech House (1995年)
  3. MAX9993のデータシート

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