車載リニアレギュレータによる無動作時電流の最小化
要約
近年、自動車の機械的機能の多くが電子回路に置き換えられ、あるいは電子回路による改良が加えられてきました。その1つの結果として、自動車1台当りのマイクロコントローラの数が急増しており、バッテリから流れる電流の総量も同様に増大しています。エンジンが回転し、オルタネータが正常に動作している限り、この電力消費が問題になることはありません。
しかしエンジンを停止すると、ウィンドウワイパーのモータ、パワーウィンドウ、ラジオ/CDプレーヤ/ステレオ、今ではほとんどの車に搭載されている「電子式快適システム」など、各種サブシステムが必要とするすべての電流を直ちにバッテリが供給しなければなりません。搭乗者がすべて車を降りた後でさえ、次にサービスが必要になったときに即座にウェイクアップすることができるように、多くのシステムがキープアライブ電流を消費し続けます。これらの無動作時電流をできる限り低く抑えるには、低静止電流のリニアレギュレータに加えて、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータの組み合わせが必要になります。このアプリケーションノートでは、無動作時電流の最小化という問題について検討し、いくつかのソリューションを紹介します。
有り余る電力を供給するオルタネータ
一般的な自動車のオルタネータは、約3000Wの供給能力を備えています。14Vの出力を想定すると、200A以上の電流を取り出すことが可能です。エアコンを全開にし、カーラジオをディスコ並みの音量にしていても、オルタネータの供給力は、自動車に搭載された電気的負荷のあらゆる組み合わせに対して十分なものです。無動作時電流について心配する必要はありません。しかし、エンジンが止まっているときはどうでしょう?
車のバッテリには、必要なすべての出力を供給する能力がありますが、少しの間に限られます。普通のバッテリの主な仕様はその容量であり、アンペア時(Ah)で表されます。小型車の場合、一般的なバッテリは約50Ahを供給します。理論上は、1Aを50時間にわたって取出し可能ということです。電流を2倍にすると、時間が半分になります。たとえば、自動車を始動させるには数百アンペアが必要ですが、それは短時間だけです。始動時に平均300Aの電流が流れるとすると、エンジンの始動にちょうど10分かけたとき、初めてバッテリを使い切ることになります。
もう1つの例として、照明を考えましょう。通常、自動車には各50Wの2個のヘッドライトと、各20Wの2個のテールライトがあります。合計で、約140Wが消費されます。車を降りるときにライトを消し忘れると、平均的な12Vシステムの場合、11.5Aが流れ続けることになります。バッテリがフル充電されていたとして、ライトが自動的に消えるのは4時間後ということです。実際には、ライトが消えるのはそれより前であり、前述したエンジンの始動にも10分かけることはできません。
標準的なバッテリは、車のサイズと車種によって、36Ahから100Ahの容量しかありません。利用可能なバッテリ容量は、いくつかの影響によって減少します。たとえば、外気温が低いほど内部の化学反応が遅くなります。-20℃では、本来の容量の半分しか利用できません。古いバッテリほど利用可能な容量が少なくなり、短距離の走行(町中の買い物など)に繰り返し使用された車のバッテリは、主として長距離走行に使用された車のバッテリよりもはるかに急速に放電します(通常、全容量を完全に再充電するには、少なくとも30分走行する必要があります)。毎回30%だけバッテリを放電している車の場合、充電サイクル数はおよそ500回になります。このように、短距離走行はバッテリの消耗を加速し、その寿命を縮めることにつながります。5年に1度はバッテリの交換が必要です。
常に電力を消費する常時オン機能
氷点下の気温が一度に数週間続くような寒い冬を想像してください。あなたは暖かく晴れたリゾート地で3週間の休暇を過ごすため、主として町中の移動に使ってきた4年落ちの車で空港に向かいます。旅行から戻ったときには、恐らくエンジンがかからないでしょう。バッテリ容量が減少しているためですが、その原因は、町中での使用、駐車場で経過した時間、凍える寒さの3つだけではありません。他にも、隠れたエネルギー泥棒が活動しています。最近の車が備える各種の常時オン機能が、絶えずバッテリ電流を消費し続けているのです。いくつか例をあげるだけでも、盗難防止システム、アラームシステム、キーレスエントリの受信機、タイヤ空気圧測定システムなどがあります。さらに、サポートを必要とされたとき即座にウェイクアップすることができるように、CANバスの特定ノードが常にバスを「リッスン」し続けています。
メーカーおよびそうしたノードの総数によりますが、それぞれはわずかなこれらの無動作時電流が、すべて合計すると数ミリアンペア、ひょっとすると100mAもの連続電流をバッテリから取り出すことになります。ここで再び、空港に止めてある車を考えてみましょう。寒い気候、町中の走行、および経年変化によって、利用可能な容量はすでに公称値の半分に減少しているかも知れません。その場合、駐車した時点でバッテリ容量は25Ahしか残っていないことになります。連続無動作時電流がたった25mAと仮定しても、21日間にわたって失われる容量は12.6Ahです。ただ単に駐車している間に、これだけの値がバッテリから取り除かれる結果として、バッテリ残量は本来の値の4分の1に減少します。残ったバッテリ容量では、冷えたエンジンを始動させるには不十分というわけです。
警告:高電圧
バッテリ容量の減少もしくは消耗という問題に対して、カーエレクトロニクスシステムは(たとえ常時オンやスタンバイモードを持たないものであっても)、無動作時電流を最小化する電源の選択肢を常に必要としています。CMOSで作られた小型のリニアレギュレータというのは、良いアイデアのように思えます。そうしたデバイスの中には、確かにほとんど静止電流の流れないものが存在するからです。たとえばMAX1725は、わずか2µAしか消費しません。しかし残念ながら、電源はそれと同時に、負荷ダンプパルスと呼ばれるものに対処するための幅広い入力電圧範囲を備えている必要があります。これは、オルタネータの稼働中にバッテリを切り離すことによって引き起こされる、短時間ではあるが過酷な過電圧状態です。
オルタネータの制御ループは、バッテリ電圧が取り除かれたときに閉じることができるほど高速ではないため、高い出力電圧パルスが発生してしまいます。この高エネルギーパルスは、通常は車内のどこか中心的な場所でもっと低い電圧にクランプされますが、自動車メーカーはそのサプライヤに対し、電源入力に残ることが予想される過電圧の仕様を示してもいます。この仕様は自動車メーカーによって異なりますが、標準的なピーク値は乗用車で36V、トラックで58Vです。さらに高い値の場合もあります。標準的な負荷ダンプパルスの継続時間は、コンマ数秒です(図1)。
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図1. この典型的な負荷ダンプ過電圧パルスは、乗用車で36V、トラックで58Vの最大値(Vs)に達しています。継続時間(td)は数百ミリ秒です。
電力損失と温度
これらの高い入力電圧レベルは、そのまま次の考慮点につながります。リニアレギュレータは仕様に示された過電圧に耐える必要があるだけでなく、低い出力電圧で大きな負荷電流を供給する際に、相当量の電力を放散させなければなりません。自動車の標準的な13V入力を50mAの負荷で5Vに変換するのは、大きな問題ではないかも知れません。損失はわずか400mWであり、標準的なSO8パッケージの最大定格にちょうど収まる値です。しかし前述した過電圧状態の間は、36Vで1.5W以上へと電力損失レベルが増大します。
すべてのパッケージは温度の上昇に伴って電力放出能力が低下するため、高温下では損失量が問題になる可能性があります。通常のSO8パッケージに封止されたレギュレータICでは、すぐにサーマルシャットダウンに入ってしまうでしょう。レギュレータが破損するわけではなく、温度が下がれば動作が回復しますが、常に機能させ続ける必要があるため、それでは意味がありません。車載リニアレギュレータには、高い電力損失が可能な先進的パッケージが必要です。
MAX5084のような標準的な車載リニアレギュレータは、車載温度範囲にわたって動作するように設計されています。入力範囲が65V、標準静止電流が50µAであり、200mAの出力電流が保証されています。エクスポーズドパッドを備えた6ピンTDFNパッケージは、+70℃において1.9Wの連続的電力損失が可能ですが、(すべてのパッケージと同様)より高い温度では定格が低下します(図2)。しかしこのパッケージは、+125℃でも依然として室温における標準SO8パッケージよりも大きな電力損失が可能です。デバイスのその他の特徴としては、出力電圧を負荷において直接制御するケルビン検出オプション、標準の3.3Vと5V以外の出力電圧をプログラムするSET端子、およびイネーブル機能があります。スタンバイ機能が必要ない場合、デバイスをディセーブルすることによって標準電源電流を6µAに低下させることができます。
図2. この小型ながら強力な車載リニアレギュレータは6ピンTDFNパッケージに封止されており、最大1.9Wの損失が可能です。最高許容周囲温度(+125℃)では600mWの損失が可能です。
可能な限り静止電流を最低に抑える必要のある常時オン機能
リモートキーレスエントリ(RKE)システムの受信機(図3)は、キーに内蔵されたリモートコントローラが発行するコマンドをいつでも検出することができるように、常に稼働している必要があります。RKE受信機の電源をディセーブルすることはできないため、その回路は(特にスタンバイモードにおいて)可能な限り低い静止電流しか流れないものにすべきです。そしてウェイクアップ時には直ちに通常の動作電流を供給しなければなりません。
図3. 標準的なRKEシステムは、車載側とキー内蔵側で構成されます。車載側の電源ブロックはバッテリに直結されているため、静止電流を低く抑える必要があります。
したがって、静止電流の最小化という面において電源ブロック(図の左上)を最適化する必要があります。低静止電流以外の点では、内蔵リニアレギュレータに課せられる要件はさほど厳しいものではありません。必要なのは、単に、入力、出力、およびグランド端子を1つずつ提供することです。受信機は常に電源が入っているため、シャットダウンとイネーブルの機能は必要ありません。しかし、出力電圧の設定方法については慎重に検討する必要があります。リニアレギュレータの多くは、外付けの抵抗分圧器を使って出力電圧を設定しますが、このアプリケーションの場合、それは良い方法とは言えません。次のようなシナリオを考えてみましょう。
MAX1470 RFレシーバは、3.3V電源で動作します。低静止電流を保証するためには、抵抗分圧器における大きなバイアス電流を許容することはできません。最大電流を2µAとすると、分圧器の抵抗値は1.65MΩ以上にする必要があります。この値自体はチップ抵抗でも入手可能ですが、高い抵抗値にはそれ以外の面で欠点があります。分圧器が歪に敏感になり、リニアレギュレータの出力電圧に影響する恐れがあるのです。
外付けの抵抗分圧器を使用する方法のもう1つの大きな難点は、油分、汚れ、塵、蒸着プラスチック、およびPCB上のその他の粒子で形成される寄生汚物層の堆積を自動車メーカーが予想していることです。こうして、寄生層が並列抵抗を形成することにより、分圧器の高いインピーダンスが時とともに減少する傾向が生じます。この汚濁による直接的な結果として、ゆっくりとした、しかし絶え間のない出力電圧の変化が起こり、静止電流が確実に増大して行くことになります。そのため、分圧器を内蔵した固定出力のリニアレギュレータの使用が望まれます。
これらの点を考慮したとき、MAX15006リニアレギュレータは良い選択です(図4)。その小型6ピンTDFNパッケージは1.5Wの損失が可能であり、3.3Vまたは5Vいずれかの固定出力電圧を備えています(要求に応じてその他の電圧も提供可能です)。MAX15006の入力電圧範囲(最大40Vまで)は、車のバッテリに直接接続することができますが、最大の優位性は、標準9.5µA (typ)という極めて低い無負荷時静止電流です。1mAの負荷の場合、車載温度範囲での最大静止電流はわずか19µAであり、最大負荷電流の50mAで110µAに増大します。ここでの例におけるMAX1470レシーバの最大電源電流は10mAよりはるかに低いことから、この性能は許容可能なものです。
図4. この車載リニアレギュレータは、最小限の端子数と外付け部品、最小限の基板スペースしか必要とせず、無負荷時静止電流は9.5µA (typ)という最小限の値です。
電力損失の問題
基板スペースとコストを節約するため、アプリケーションがリニアレギュレータを電力損失能力の限界まで酷使している場合でさえ、設計者はスイッチング電源の使用を避けることがあります。たとえば、5V電源を必要とする車載電気制御ユニット(ECU)を考えてみましょう。ECUには通常、マイクロコントローラ、センサ、およびCANドライバまたは他のバスインタフェースデバイスと、それに接続された若干のアナログ回路が含まれています。フル動作時には、150mAの電源電流が流れる可能性があります。
したがって、公称入力電圧13Vのリニアレギュレータは1.2Wの損失が可能であり、負荷ダンプ時にはそのレベルが短時間だけ4Wに増大する可能性があります。トラックに見られる公称26Vを扱うには、レギュレータは3W以上を連続で損失しなければなりません。これらのアプリケーション向けに、最大400mAの出力電流用に設計されたもう1つの車載リニアレギュレータ(MAX5087)があります。これは、より大きな8mm × 8mmの56ピンQFNパッケージに封止されており、許容電力損失が3.8Wに高められています(図5)。
図5. MAX5087リニアレギュレータのパッケージオプションの1つに56ピンQFNがあり、最大許容電力損失が3.8Wに増大します。
「ハウスキーピング」機能を必要とするアプリケーションの場合は、MAX6791リニアレギュレータ(図6)が最善の選択です。その20ピンQFNパッケージは2.7Wの損失が可能であり、デュアルリニアレギュレータの内の1つは、たとえばマイクロプロセッサ用の3.3VやCANトランシーバ用の5Vなど、第2の電源電圧を生成することができます。その他の特徴として、プログラマブルなトリガウィンドウを備えたウォッチドッグ、パワーオンリセット、補助電源電圧を監視するための電源障害コンパレータ、および外付けパワーMOSFET用のドライバロジック(大型で電力損失の大きい逆電流保護ダイオードの代わりに使用するため)などがあります。
図6. この車載リニアレギュレータには2個のリニアレギュレータと1組の「ハウスキーピング」機能が含まれています。70℃で2.7Wの損失が可能です。
同様の記事が、Elektronik Tidningenの2006年11月号に掲載されています。
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