非絶縁型DC-DCコンバータで同期整流を使用する場合に性能を最適化する方法
要約
このアプリケーションノートは、非絶縁型DC-DCコンバータで同期整流を実装する場合の利点と、最高の性能を実現するために回路設計で必要になる追加の考慮事項について説明します。
このアプリケーションノートは2017年12月8日にPower Electronicsに掲載されました。
非絶縁型DC-DCコンバータの最も基本的な図には、通常は2つの理想スイッチとエネルギー蓄積インダクタが含まれています。初期の設計において、エンジニアたちは1つのスイッチを低コストダイオードによって置き換えることができることにすぐ気がつきました。メインスイッチオフ時にインダクタがその電圧を逆転させ、フリーホイーリングダイオードD1を順方向バイアスすると、D1は適切な瞬間に自然にオンになります (図1の左側を参照)。
図1. ダイオードと同期整流の比較
この方式は、簡潔さの点で優れています。確かに、ダイオードが出力電流を循環させるときに多少の電圧降下はありますが、それでも出力電圧が比較的高い場合は電力損失のわずかな割合でしかありません。
しかし、低消費電力を維持しながら動作速度を増大させる努力の中で、プロセッサおよびその他のIC用の出力電圧は1V以下に急落しました。皮肉なことに、これによって出力電圧に占めるダイオード電圧降下の割合がはるかに大きくなったため、効率の問題が再びDC-DCコンバータ電力源に戻ってきました。1Vの出力で1Vのダイオード降下が消費する電力は、オフ時間にコンバータが負荷に供給する電力と同じ量です(1 - D)。そのため、この期間のコンバータは約50%にすぎません。この低効率が全体的なコンバータの効率にどのように影響するかは、入出力電圧比とオン時間の効率によって決まります。DC-DC入出力電圧差が大きいほど、関連するオフ時間が長くなり問題が悪化します。
電圧降下が最小限の理想スイッチ
このジレンマの解決策として、SW2を最小限の電圧降下の理想スイッチに戻す試みが行われてきました。バイポーラトランジスタというオプションもありましたが、MOSFETが当然の選択肢でした。ダイオードの損失は単純に電流に比例するのに対し、これらのデバイスの損失は電流の2乗に比例するため、当初これらの使用はより低電流のアプリケーションに限られていました。今日では、RDS(ON)の値が非常に低くなったため、大電流のアプリケーションも実現可能です。MOSFETの総ゲートチャージ値(QG)も低下したため、駆動損失が大幅に低減され、より高い動作周波数が可能になっています。MOSFETは、ディスクリートデバイスの並列接続またはIC内の複数のチップの並列接続で、総オン抵抗とチップ温度の低減によって比例以上の性能向上を実現することができるという点でも有利です。これらのデバイスはRDS(ON)に対する正の温度係数を備えているため、自然に電流が分配されます。それに対して、ダイオードはパラレル接続が可能ですが、電流の分配に関する保証はありません。もちろん、MOSFETは能動的にオン/オフを駆動する必要がありますが、メインスイッチに対して単純に逆位相でグランド基準の信号であるため、制御ICへの内蔵が容易です。1つ重要な注意として、2つのスイッチは、たとえ一瞬でも同時にオンにしてはならず、もし同時にオンになると入力電源が直接短絡して、半導体およびPCBトレースに損傷を与える可能性があります。
実際には、スイッチのオン時間の間にデッドタイムが制御ICによって挿入され、シュートスルーがないことが保証されます。デッドタイム時にも、MOSFET固有のボディダイオードによって整流は発生します。このダイオードは、通常は比較的大きい順電圧降下と長い逆回復時間を備えているため、あまり長いデッドタイムを許容すると大きい消費電力につながります。これらの問題は、制御IC内の厳格なタイミング制御によって最小限に抑えることができます。もう1つの対策として、ソリューションのコストが増加しますが、ショットキーダイオードをMOSFETと並列に接続して、ボディダイオードより先に導通させる方法があります。
図1は、簡単な比較例を示しています。ここでは、24Vから5V/2.5Aを生成するDC-DCコンバータの電力損失を、ダイオードと同期整流器を使用して比較しています。たとえ5V出力でも優位性は明白で、整流器では損失が0.99Wから0.4Wへと半分以下に減少しています。ショットキーダイオードを使用した場合でも、向上は大幅です。出力電圧が低いと、向上はさらに大幅になります。その結果、MAX17503のように、より低消費電力の同期整流MOSFETを制御ICに内蔵することが可能になり、コンバータの全体的な温度上昇が低減されます(この例では30℃)。あるいは、同じ温度上昇で、より小型のソリューションが可能になります。
両方向の導通
同期整流MOSFETがダイオードと異なるもう1つの領域は、オン時に両方向の導通が可能であることです。通常の動作では、これは問題ありません。しかし、負荷が複数のシーケンス制御された電圧レールを必要とし、すでに(たぶん抜け道を通って)負荷に何らかの電圧がかかっている状態で、最後にDC-DCコンバータをオンにする必要がある場合を考えてみてください。DC-DCコンバータは、通常はソフトスタートを備え、起動後にデューティサイクルが動作ポイントまで漸増します。つまり、同期整流MOSFETが導通するとき、最初はオンパルスが短くオフ時間が長くなります。プリバイアス負荷の電圧は、最初はDC-DC出力より高いため、電流はDC-DCコンバータとMOSFETに逆流し、DC-DCコントローラの正常な起動を妨げる場合があります。
これは、起動段階では同期整流をディセーブルし、MOSFETのボディダイオードに「フリーホイール」ダイオードの機能を果たさせることによって解決可能です。これも、制御ICの機能に容易に組み込むことができます。起動時の消費電力の増加はわずかです。
軽負荷動作
MOSFETが双方向に導通可能であることは、軽負荷動作に影響を与え、有利に働きます。図2のインダクタ電流を見ると、より高い負荷(上のグラフ)では平均DC電流IO(AVG)とリップル電流は見慣れた形状をしており、ピークトゥピーク振幅がインダクタ値とデューティサイクルで設定されます。負荷がより低い値になると(下のグラフ)、負荷がリップル電流のピークトゥピーク値の半分になるポイントで、リップル電流の谷がゼロに接触しています。負荷がさらに減少すると、ダイオード整流の場合、電流は次のオン時間の開始後の一定ポイントまで停止し、そこで電流はゼロ以上に増大します。これは不連続導通モード(DCM)です。MOSFET同期整流器の場合、電流は双方向に流れることができるため、連続導通モード(CCM)のままになります。
図2. 同期整流による連続導通
DC-DCコンバータはDCMでも電力の供給と安定化を継続することができますが、伝達関数が変化します。CCMの帯域幅と過渡性能に合わせて最適化されたループは、DCMでは次第に最適状態ではなくなり、反応が遅くなります。CCMでは、出力電圧とデューティサイクルDとの関係は単純に次式で表されます。
バックコンバータがDCMで動作する場合、状況は大幅に複雑化し、次式で表されます。
この場合、デューティサイクルは負荷電流の平方根に比例して変化します。その結果、コンバータのパワー段の伝達関数がより複雑になります。また、Dは実際のインダクタンス(L)と、スイッチング周波数(fSW)にも依存します。性能の観点からは、同期整流でCCMのままの方が明らかに良いオプションです。実際、最近のバックコンバータの設計では、ループ性能は重要ではないため意図的に高いリップル電流値を許容しています。これによって、より小さい値のインダクタの使用が可能になり、コストと大きい信号スルーレートへの対応の面で利点があります。
軽負荷効率が設計上の制約になる場合は、同期整流器をディセーブルし、MOSFETのスイッチング損失と負電流導通損失を犠牲にすることによって不連続モードの動作を可能にするのが良い選択肢となります。制御ICは、このオプションおよびその他のオプションを提供することができます。たとえば、制御ICは軽負荷時にオン時間を一定に維持するパルススキップモードを強制することができます。このモードはパルス周波数変調(PFM)と呼ばれ、軽負荷時にスイッチング周波数を効果的に変化させ、電圧を一定に保つのにちょうど十分なだけのエネルギーが出力に伝達されるようにすることによって安定化を実現します。スイッチング損失は周波数に比例するため軽負荷時には低減し、ゲート駆動電力が低下し、両方のスイッチを長時間オフにすることができるため、この期間はIC内部の特定の回路をディセーブルして、さらに多くの電力を節約することができます。
図3は、各種モードの波形を示しています。
図3. CCM、DCM、およびPFM動作モード
ブーストコンバータによる同期整流
ブーストおよびバックブーストコンバータで同期整流を使用するのは、それほど簡単ではありません。整流器はグランド接続された端子を備えていないため、MOSFET駆動はグランド基準ではなくなります。より問題になる可能性があるのは、DCMにおいて、制御ICは蓄積されたエネルギーがすべて転送されたことを認識するとは限らない点です。スイッチングサイクル終了前の何らかの軽負荷状態でこれが発生した場合、ダイオードは単に導通を停止します。それに対して、MOSFETは逆方向の導通を開始します。ブーストコンバータでは、これによって出力が入力に接続され、出力コンデンサから電気が流れて出力電圧が低下します。これを防止する方法としては、可変周波数モードでCCMを強制するか、MOSFETを通る逆電流を検出して駆動をカットする方法が考えられます。しかし、ブーストコンバータはその定義からしてより高い電圧を生成するため、同期整流の利点はそれほど重要ではなく、大きな問題ではありません。
同期整流器は絶縁型バージョンのバックおよびブーストコンバータでも使用可能で、簡素な自己駆動回路、または駆動信号が絶縁障壁を通過する、より複雑ですが優れた制御のバージョンを選択することができます。この話題の詳細については、最初のスイッチング電源の生みの親であるBob Mammanoが司会を務めるビデオ「スイッチングレギュレータ制御アルゴリズム入門」をご覧ください。このビデオは、電力スイッチング技術のさまざまな側面をカバーする電源システム設計ビデオのシリーズの一部です。