DN-195: LTC1562ユニバーサル・フィルタ・ファミリによる100dBストップバンド減衰
LTC®1562とLTC1562-2は、それぞれ4個の2次オペレーショナル・フィルタ™ブロックを内蔵するコンパクトな高性能“ユニバーサル”コンティニュアスタイム・フィルタ製品です。これらの低ノイズ、高DC精度フィルタを使用すれば中心周波数(f0)を約10kHz~150kHz(LTC1562)または約20kHz~300kHz(LTC1562-2)の範囲で調整することができ、何個かの高精度コンデンサ、抵抗、およびオペアンプとの置き換えができます。周波数設定部品はすべて内部にあり調整されています。ただし、各ブロックに1個ずつある精度が要求されない抵抗を除きます(この外付け抵抗値の誤差が1%であっても、プログラムされたf0の誤差は0.5%にしかなりません)。各ブロックのQおよび利得は追加部品によって設定されます。表面実装ボードにLTC1562またはLTC1562-2を使用した完全な応用回路のボード・サイズは約155mm2です。
図1に1ブロック、すなわち2次セクション(各LTC1562はこれらを4個内蔵しています)と、標準2次フィルタ・パラメータf0、Q、利得を設定するための外付け抵抗を示します。この例では、2つの出力からローパスおよびバンドパス応答が得られるようにセクションが構成されています。適切な値の抵抗を用いて図1の回路をカスケード接続すれば、チェビシェフ、ベッセル、バターワースなど全ポール・ローパスまたはバンドパス・フィルタ応答を実現できます。コンデンサを外付けすれば、ハイパス応答が得られます。これらのフィルタは、低ノイズと低歪みを維持しながら不要周波数を100dB抑圧することが可能です。
図1. オペレーショナル・フィルタ・ブロック(点線内)外付け抵抗によりローパス(V2)およびバンドパス(V1)応答が得られるように構成。LTC1562またはLTC1562-2はこのようなブロックを4個内蔵
しかし、オペレーショナル・フィルタ・ブロックは、それ以外の多くの斬新なアプリケーションに使用できます。各ブロックは柔軟性のある仮想グランド入力(INV)およびV1とV2の2つの出力を備えています。V2はV1の時間積分出力であり、そのため非常に広い周波数範囲にわたってV1から90°だけ遅延します。仮想グランド入力または2種類の出力からの並列経路により、伝達関数はゼロになります。このうち最も有用なものは、虚数軸のゼロ・ペアまたはノッチです。
図2に単純で強力なノッチ・フィルタリング手法を示します。ノッチ・フィルタある周波数(fN)で利得がゼロです。ノッチ・フィルタはある周波数を取り除くのに役立つだけでなく、以下に示すようにノッチをストップバンドに配置することにより、ローパスおよびハイパス・フィルタの選択性を改善するのにも効果的です(このような応答を一般に“エリプティック”または“カウア”と呼びます。)
図2. 1/4 LTC1562オペレーショナル・フィルタ・セクションを使用した強力なノッチ・フィルタ回路。RNとCNでノッチ周波数を制御。
図2では、2次セクションが2つの経路(コンデンサを通る経路と抵抗を通る経路)を通して仮想グランド入力をドライブするときにノッチが発生します。仮想グランドはオペアンプの入力、または図3に示すとおり別のオペレーショナル・フィルタ入力にすることができます。コンデンサCNによって、V1電圧とV2電圧間の位相差90°にさらに90°の位相差が加算されます。
電流ICとIRの値が等しくなる周波数では、この2つの経路がキャンセルされ、2次ノッチが発生します。2次ノッチの周波数は次式のとおりです。
fN = √f1 / 2π(RN)(CN)
ここで、f1は各オペレーショナル・フィルタ製品で内部調整されたパラメータです(LTC1562では100kHz、LTC1562-2では200kHz)。ノッチ周波数fNは、図1に示すとおり、中心周波数f0には関係なく各2次セクションごとに個別にプログラムされます。
図2の注目すべき特長は、本質的に深いノッチ応答です。ノッチの深さは他のノッチ・フィルタ回路のように部品の整合性によるものではありません。RNまたはCNの値に誤差があると、ノッチ周波数fNは変化しますが、fNにおけるノッチの深さは変化しません。また、ノッチの深さはfN式の平方根に依存するため、RNおよびCNの値の誤差に対するノッチ周波数には敏感ではありません。
図3に、図2のノッチ手法を使用した8ポールの変形エリプティック応答の50kHzローパス・フィルタを示します。このフィルタでは、3つのオペレーショナル・フィルタ・ブロック(ピン配置の順に“B”、“C”、“A”)は、図2のとおりにRCの組合せをドライブし、それぞれ約133kHz、167kHz、222kHzの周波数にノッチを作り出します。その後に図1に示す2次ローパス・セクション(f0=55.5kHz)が続きます(“D”ブロック)。図4に周波数応答の測定結果を示します。周波数応答は、1オクターブよりやや高い周波数で100dB減衰しています。ノッチ周波数の選択は、ストップバンド・リップルに対するパスバンドの平坦性とのトレード・オフになります。ユーザは、これをFilter CAD™ for Windows®(リニアテクノロジーから無償で提供)などのアナログ・フィルタ設計ソフトウェアで調べることができます。図3の値では、140kHz以上でのストップバンドの減衰量は100dBを超えます。この回路の出力ノイズは、入力および出力がほぼレール・トゥ・レールで振幅した場合は(500kHzのバンド幅で)60µVRMS、あるいは±5V電源での動作時にはピークSN比は95dBです。THDは20kHzにおいて出力1VRMS(2.8VP-P)時に-95dBです。
図3. 100dBのストップバンド・リジェクションのLTC1562 50kHzエリプティック・ローパス・フィルタ
図4. 図3の回路の周波数応答
数100kHzで100dBの減衰量を得るには、良好な接地方法と電源デカップリング、および重要な経路(INV入力など)の寄生容量が最小で、電気的にクリーンかつコンパクトな設計を行う必要があります。たとえば、LTC1562の近くに0.1µFのコンデンサを配置すれば、クリーンで低いインダクタンスの電源から十分にデカップリングされます。しかし、チップの近くで十分な(10µF以上)容量でデカップルしなかった場合は、電源からの数インチの線(つまり、数µHのインダクタンス)によって、LT1562の電源またはグランド・リファレンスに高いQのLC共振(数100kHz)を引き起こし、これらの周波数でSNRおよびストップバンド・リジェクションが低下する可能性があります。