DN-529: 銅線の長さ制限なしで、離れた場所の負荷の電圧を制御
はじめに
電力分配システムでは、レギュレータと負荷の間のケーブル / ワイヤ電圧降下によってレギュレーションが悪化することがよくあります。ワイヤ抵抗、ケーブル長、または負荷電流が増加するほど、分配ワイヤ上の電圧降下が増加し、負荷の実際の電圧とレギュレータが認識する電圧との誤差が広がります。長いケーブルでつながれた場合のレギュレーションを改善する方法の 1 つは、レギュレータと負荷の間に 4 線ケルビン接続を配置して、負荷の電圧を直接測ることです。残念ながら、この方法を実装するには、追加のワイヤを配線して負荷の近くにケルビン抵抗器を配置する必要があり、負荷にアクセスして回路修正できない場合には、現実的ではありません。もう 1 つの方法は、口径の大きいワイヤを採用して、レギュレータから負荷への抵抗を小さくし、電圧降下を最小限に抑えることです。この方法は電気的にはシンプルですが、機械的には複雑になることがあります。心線のサイズが大きくなると、スペース要件とコストが大幅に増加することがあります。
ワイヤを追加する代わりに、レギュレータと負荷の間にケーブル / ワイヤ電圧降下補償器の LT®6110 を追加配線なしで使用して、レギュレータでの電圧降下を補償する方法があります。本稿では、LT6110 でどのように、広範囲のレギュレータを補償して電圧降下を改善するかを紹介します。
LT6110 ケーブル / ワイヤ電圧降下補償器
図 1 は、1 線の補償ブロック図を示しています。離れた場所の負荷回路がレギュレータとグランドを共用していない場合、負荷へのワイヤとグランドリターンのワイヤとで 2 線が必要になります。LT6110 のハイサイド・アンプは、検出抵抗(RSENSE)両端の電圧(VSENSE)を測定して負荷電流を検出し、負荷電流(ILOAD)に比例する電流(IIOUT)を出力します。IIOUT は、RIN抵抗によって 10µA ~ 1mA の間でプログラム可能です。ケーブル / ワイヤ電圧降下(VDROP)補償は、帰還抵抗(RFA)を介してシンク電流(IIOUT)を供給し、VDROP に相当する電圧分だけレギュレータの出力を増加させることで実現されます。LT6110 ケーブル /ワイヤ電圧降下補償器の設計はシンプルで、IIOUT • RFA の積をケーブル / ワイヤ電圧降下の最大値に設定します。

LT6110 には、3A までの負荷電流に適した 20mΩ RSENSE が内蔵されていますが、ILOAD が 3A より大きい場合、外付けの RSENSE が必要になります。外付けの RSENSE には、検出抵抗、インダクタの DC 抵抗、もしくは PCBトレース抵抗を使用できます。シンク電流(IIOUT)のほかに、LT6110 の IMON ピンはソース電流(IMON)を提供し、LT3080 などの電流を基準とするリニア・レギュレータを補償できます。
降圧レギュレータのケーブル電圧降下補償
3.3V、5A 降圧レギュレータと LT6110 で構成されるケーブル / ワイヤ電圧降下補償システムを図 2 に示します。ここでは、20 フィート長の 18 AWG 銅線を介して接続された負荷の電圧レギュレーションを行います。降圧レギュレータの出力電流は 5A であるため、外付けの RSENSE を使用する必要があります。

140mΩのワイヤ抵抗と 25mΩの RSENSE を通る最大 5A の ILOAD では、825mV の電圧降下が生じます。負荷電圧(VLOAD)を補償するには、0A ≤ ILOAD ≤5A の間で、IIOUT • RFA が 825mV に等しくなる必要があります。設計上の選択肢は 2 つあります。1 つはIIOUT を選択して RFA 抵抗を計算することです。もう1 つは非常に低い電流に対応するレギュレータの帰還抵抗を設計し、IIOUT を設定する RIN 抵抗を計算することです。通常、IIOUTは100μAに設定されます(IIOUTの誤差は 30μA ~ 300μA で±1%)。 図 2 の回路において、帰還経路の電流は 6μA(VFB/200k)で、RFA 抵抗は 10k であり、RIN 抵抗は IIOUT • RFA = 825mV に設定するよう計算する必要があります。
ケーブル / ワイヤ電圧降下補償なしの場合、負荷電圧の変動の最大値 ∆VLOAD は 700mV(5 • 140mΩ)になります。これは、3.3V 出力で 21.2% の誤差に相当します。LT6110 により、∆VLOAD はわずか 50mV(25°C時)、1.5% の誤差に低減されます。つまり、負荷レギュレーションが桁違いに向上しています。
正確な負荷レギュレーション
LT6110 で負荷レギュレーションを通常のレベルで向上させるのに、RWIRE を正確に見積もる必要はありません。負荷レギュレーションの誤差は、ワイヤ /ケーブル抵抗による誤差と LT6110 補償回路による誤差の積です。たとえば、図 2 の回路を使用すると、RSENSE と RWIRE の計算誤差が 25% であっても、LT6110 によりVLOAD の誤差は 6.25% まで低減できます。
高精度な負荷レギュレーションを行うためには、電力源と負荷の間の抵抗を正確に見積もる必要があります。RWIRE、RSENSE、ワイヤと直列に接続されたケーブル・コネクタおよび PCBトレースの抵抗を正確に見積もった場合、LT6110 は、幅広い電圧降下を高い精度で補償できます。
LT6110 とともに、正確に見積もった RWIRE と高精度な RSENSE を使用すると、ワイヤ長がどれだけ長い場合でも、∆VLOAD の補償誤差を低減してレギュレータの電圧誤差に一致させることができます。
まとめ
LT6110 のケーブル / ワイヤ電圧降下補償器を使用すると、高電流の長いケーブル長と抵抗により電圧レギュレーションが大幅に悪化する場合に、離れた場所にある負荷のレギュレーションを向上できます。他のソリューションでよくあるように、検出用にワイヤを追加したり、ケルビン抵抗器を購入したり、銅線を太くしたり、POL(ポイントオブロード)レギュレータを実装することなく、正確なレギュレーションを実現できます。他のソリューションとは異なり、この補償器ソリューションは大きな面積を必要とせず、設計の複雑性と部品コストを最小限に抑えることができます。